バレンタインデーという実は少し面倒なイベントの日。
 本来ならば渡す立場であるはずの孫市は何故か同性の女性からチョコを貰っていて、それが朝から放課後に至るまでずっと続いたものだから、孫市の疲労はピークに達していた。
 自分が女性らしくないというのは自覚していたが、同性にもてるというのは初耳だった。頬を染めて恥ずかしそうにチョコを渡す女子生徒は可愛らしいものだと思う。思うけれども、紙袋三袋にも及ぶチョコを押し付けられては少しは辟易してもいいだろう。
 そもそも、本命、といっていいのかわからないが、こういうイベント事には必ず参加する彼が一度も姿を見せないのもおかしい。恋だの愛だのを語るのが好きなお祭り男は、普段の騒がしさがどこへやら、一度も孫市の元へ来ていない。
 それも、苛立ち混じりの疲労の原因だった。
 ようやく落ち着いた放課後に、誰もいない教室でゆっくりと雑誌を読んでいたときだった。問題の男がやってきたのは。
「ハッピーバレンタイン! ってわけではいこれ!」
 目の間に差し出された箱と、満面の笑みを浮かべる男を見比べて、孫市はとりあえず受け取らずに首をかしげて見せた。
 慶次の大きな手が持っているのは、綺麗にラッピングされた箱だ。ワインレッドの包装紙と金のリボンがマッチしていて、派手好きな彼にしては落ち着いたイメージのものだ。
「何だこれは。チョコか?」
 わかっていながら尋ねてみれば、慶次は弾んだ声で答える。
「俺から孫市へ愛をこめて、手作りチョコケーキ! まつ姉ちゃんに教わりながらだったけど、結構うまくできてるだろ?」
「……」
 こてん、と小さく首を傾げながら首を傾げる慶次が男とは思えないほど可愛くて、思わず孫市は黙ってしまった。
 ガタイがいいくせに。孫市より背が高いくせに。
 仕草だけはやたら可愛らしい。
 言葉にならない感情が孫市を襲う。
 だが、孫市の沈黙を悪い方向に受け取ってしまったらしい慶次は、眉尻を下げて落ち込んだ様子を見せた。
「な、なんだよそのリアクション。……さすがに引いた? 俺、孫市に喜んでもらおうと思って頑張ったんだけど……」
 不安げな声はだんだんと消えていく。朝から来なかったのはこのせいだったのだと、孫市は今更納得した。まつ姉ちゃんにケーキの作り方を習い、このケーキを作るために一度も姿を見せなかったのだ。
 孫市は口元に笑みを浮かべて、慶次の手からケーキの箱を奪い取った。
「からすが。嬉しいに決まっているだろう」
「ホント!? なら作ったかいがあったな。孫市が喜んでると俺も嬉しい」
 孫市の言葉一つで途端に笑顔になる慶次。その様子にうんうんと頷いた孫市は早速リボンをほどいて箱を開けた。
 中に入っていたのは切り分けられたケーキではなく、ホールケーキ一つだった。クリームまでチョコらしい。チョコ色のクリームがぐるりとケーキを一周している。真ん中に置かれたチョコプレートには下手な字でHappyValentineと書かれていたのが妙に笑えた。
「ずいぶんと大きいな。切り分けるぞ?」
「あ、待ってってば」
 慶次が持ってきたらしいナイフを受け取り、ケーキにナイフを刺す。慶次の制止も聞かずに切り分けると、ふわふわのクリームが孫市の手を汚した。少し舐めると、甘すぎず苦すぎず、孫市好みの味が口の中に広がった。
「あーあ。俺が切るって言おうとしたのに……。孫市の手、クリームまみれ。舐めるぞ?」
「ふふ。好きにしてみればいい」
「ぅえ!?」
 からかう調子で言ってくるからからかい返したら、慶次は本気でうろたえた。そうやってうろたえるから可愛いのだ。
  孫市は冗談半分で手を差し出した。 「どうした? 舐めるのだろう?」
「そ、そういうこと真顔で言うなってば!」
 後ずさりする慶次はもう真っ赤だ。視線も泳いでいるし、どうあっても逃げたいらしい。だが、こんなに面白いものを孫市がみすみす逃がすはずがない。
「お前が舐めようとしないのなら、舐めさせるまでだ」
 汚れていない方の手で慶次の顎を捕まえて固定する。女性には、特に孫市には抵抗できない慶次はなすがままだ。
 目も合わせるように下から覗き込む形で見つめ、少しだけ胸も押し付ける。これで慶次は身動きが取れない。無理に口を開かせて、孫市はクリームまみれの指を慶次の口に突っ込んだ。
「わ、ちょ、待っ……んッく……」
 背筋がぞくぞくしたのはさておき、思った以上に従順な慶次に満足した孫市は、指を突っこんだまま囁くように尋ねた。
「うまいか?」
「……美味しい、です」
 羞恥心いっぱい、といった表情の慶次にキスした孫市は悪くない、はずだ。






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某男の子とコミュを築き上げていくゲームの台詞があんまりに孫慶ぴったりだったので、パロってみました。
孫慶可愛いよ孫慶。
押せ押せな孫姐に戸惑う慶次が可愛いです。
襲っていいですか←






2011.02.14.