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朝からずっと政務続きで、息抜きに忠勝に手合わせを頼もうと外に出てきたときだった。家康が想い人を見かけたのは。 大きな背と長い髪、がっしりした体躯に似合わない甘い顔。一瞬だとしても、見間違うはずがない。慶次だ。 それまで政務によって疲れていた気分は一転、あっという間に上昇する。今なら少し苦手な最上にだって抱きつける気がする。上機嫌な家康は弾んだ声で想い人の名を呼んだ。 「慶次! 偶然だな!」 殊の外大きな声が出ていたのだろう。振り向いた慶次は一瞬驚いた顔をしてから、ふわりと微笑んだ。 「家康! なんか久しぶりだな」 「お前は雑賀衆のところにいるし、ワシは政務に追われているからな」 家康が天下人になってからというもの、処理しなくてはならない書状は以前の倍以上に増えた。鍛錬に当てる時間もそこそこに机に向かわなくてはならないほどに。 慶次は慶次で雑賀衆の頭領孫市に惚れたとかで、しょっちゅう越後を抜け出しては雑賀衆にくっついている。 偶然にしろ意図的にしろ、会う機会などないに等しい。だからこそ、こうやって会えたことがこの上なく嬉しいのだ。 「今日はゆっくりできるのか? もしよければ久々に話がしたい」 「あー……多分無理だな。孫市用事が終わったらすぐ帰るって言ってたし」 「そうか……」 それは残念だ。せっかく慶次に会えたのに。 肩を落とす家康の肩を、慶次は優しく叩く。頑張れよ、と見当違いな慰めをくれる慶次が恨めしい。 「ここだけの話、孫市ってすっごい厳しいんだぜ。戦のことじゃなくて、家事のこととかさ」 声をひそめて、慶次は囁く。 戦嫌いの慶次は傭兵集団の中ではやはり異質で、孫市からは雑用ばかり押し付けられているらしい。彼女を守りたいのに、と嘆く慶次に、家康は苦笑をもって返す。彼女との恋が成就しなければいいのに、と考えている家康に何も言えるはずがない。 口にする言葉は不平不満のそれなのだが、話す慶次は楽しそうだ。 いろいろと吹っ切れたのだろう。こうして話をしてくれるようにもなったわけだし。慶次が笑っていると、家康も嬉しい。 「やはりお前は、笑っている方がいいな」 見ている方も笑顔になってしまうような、春の笑顔。慶次にはそれがよく似合う。 そう言うと、慶次は困ったように笑った。 「そういうのは好きな子に言わないと。せっかくかっこよくなったんだからさ!」 本当にたちが悪い、と家康は言えない言葉を飲み込む。代わりに震える右手をそっと慶次の頬に添えた。撫でるように動かすと慶次の肩がびくりと反応を返す。 「お前だから、言ってるんだ」 家康が好きなのは、慶次だから。 「いえや――」 「前田」 慶次が口を開いた瞬間、計ったかのように孫市が現れた。冷静なはずのその顔には少し苛立ちが浮かんでいるように見えた。 「仕事が終わった。帰るぞ。徳川、邪魔したな」 「ああ、うん。わかった。――ごめん、家康」 驚くほどあっさりと、慶次は離れていく。そして、何事もなかったかのように孫市の隣に並ぶと彼女に笑いかけた。あの、春のような笑みで。 家康はただそれを見送るほかなかった。 「なあ、忠勝」 いつの間にか背後に控えていた従者に、家康は気づいていた。また攫われるとでも思ったのかもしれない。今はもう自分で何とかできるというのに、過保護なことだ。 「どうやったら風を捕まえられるんだろうな」 忠勝が困るのをわかっていながら問いかける。いつだって風はこの手をすり抜けていく。 慶次が残したごめんが拒絶の言葉にも思えて、家康は唇を噛みしめた。 +end+ +++++ 家慶に滾りましたごめんなさい。 家慶好きすぎる。 構図的には家→慶→孫な感じです。 孫姐からは慶次にやじるしが向くかもしれない←私の好み 家康が悶々と慶次のこと思ってたらにやにやしますwwww 2011.02.10. |