幼馴染みが怪我をしたと聞き、半兵衛はすぐに慶次の家へと向かった。家に着くと、困ったような表情をした慶次の保護者に迎えられる。
 慶次は背中を強く打っただけでそこまでひどい怪我ではないという。半兵衛は少し胸をなでおろして、慶次の部屋の戸を叩いた。
「はーい。まつ姉ちゃん?」
「残念ながらまつさんではないよ」
 彼女ならきっと名前を呼びながらノックするだろう。慶次の口から出るのは彼女の名ばかりだな、と思いながら、半兵衛は中に入る。
 ベッドにうつ伏せになっている慶次は驚いた表情をしていた。後ろ手にドアを閉め、部屋中に充満する湿布の匂いに眉を寄せる。
「君が怪我をしたと聞いてね。様子を見に来たのだけれど……」
 背中を強く打っただけだと聞いたが、実際にたくさんの湿布が貼られているのを見ると痛々しく見える。
「ありがとな、半兵衛。これまつ姉ちゃんたちが大げさなだけで、実はそんなに痛くないんだ」
 渋い表情を崩さない半兵衛を見て、慶次は苦笑する。慶次はそういうが、普段から無理をするきらいのある慶次である。半兵衛もまつに同意見だ。
 ベッドに背を預ける形で床に座り、半兵衛はベッドの上の慶次に問いかけた。
「それはわかったけど、君はどうしてそんな怪我をしたんだい? 君はそんなヘマをするような人じゃないだろう?」
「それがさ、今日の帰りに偶然ネコ見つけてさ」
 慶次が言うには、小学校から帰る途中、寄り道をした公園で鳴き続ける猫を見つけたらしい。その猫を追いかけると、公園の奥の木の上で降りられなくなっているもう一匹の猫を発見したのだという。
「なんか俺のこと引っ張ってったネコが助けてくれって言ってる気がしてさー。助けようと思って木に登ったら、バランス崩して落ちちゃったんだよな」
 あ、でもネコは無事だったぜ、と慶次はブイサインをしてみせる。自分が怪我をしておいて、どうしてそんなに自慢げなのか。半兵衛はどこかがぷつり、と切れた音を聞いた。
「馬鹿じゃないのか、君は」
 気がつけば言葉が零れていた。怒りを押し殺した低い声に慶次の肩が跳ねる。戸惑う慶次を見ても、半兵衛の怒りは止まりそうになかった。ベッドに預けていた身を起こして、慶次と向かい合う。
「いくら猫が助かったって、君が怪我をしたら意味がないじゃないか!」
 叫ぶ半兵衛に、慶次は困った表情でだけど、と呟いた。
「困ってるのを見たら見捨てらんないだろ」
「助けるのは君じゃなくてもいいだろう!」
「じゃあ黙って見てろって言うのかよ!」
「そんなことはいってない! 大人を呼ぶことだってできただろうと言ってるんだ。呼んだら秀吉だってまつさんだって利家さんだって助けてくれる!」
「呼びに行ってる間に落ちたらどうするんだよ!」
「猫なんだからそうそう落ちるはずがないよ!」
 叫びあって、けれど意見は平行線のままで。どちらも自分の意見を譲らないから、互いに睨み合う。叫びすぎたのか、二人とも肩で息をしていた。
 しばらく無言が続き、先に目を逸らしたのは半兵衛だった。
「君が怪我をして動けないと聞いて、心臓が止まるかと思った」
 大怪我をして死にかけているのではないかとか、もう一生動けなくなるのではないかとか、嫌なことばかりが頭をよぎった。全身から血の気が引いて、うまく息ができなくなった。慌てて駆けつけてまつから様子を聞いて初めて、まともに息ができたくらいなのだ。
「君がいなくなったらどうしようって怖かった。君が怪我をすることでそんな気持ちになる人がいるんだ。君はそれを考えたことがあるかい?」
 視界が霞む。泣きそうだということは自分が一番よくわかっていた。
 いつも泣くのは子供っぽいことだと自分を戒めているのに、慶次のことになると歯止めが利かなくなる。
 それもこれも慶次のせいだ。自分一人で抱え込んで傷つくから。
「秀吉はそれをわかってるから無茶はしない。なのに君は、君は……!」
 唇を噛みしめる。そうでもしなければ泣いてしまうと思った。
「……ごめん」
 俯く半兵衛の耳に、小さな小さな声が届く。顔を上げると、半兵衛と同じように泣きそうになっている慶次の顔がそこにあった。
「ごめん、ごめん。もう、しない……!」
 ごめんと繰り返しながら、慶次は泣き出していた。つられるようにして、半兵衛も泣き始めてしまう。
「もう、しないから。約束、するっ」
「うん。絶対、だから」
 涙に濡れた顔のまま、二人は指切りを交わした。






+++++






 数年後。






 幼馴染みが勉強を教えてくれというので、半兵衛は久しぶりに幼馴染みの家を訪れた。
 高校に入ってから、クラスが違うということもあって互いの家を訪ねることは少なくなっていた。だからといって二人が離れていったというわけではなく、学校ではむしろ一緒にいる方だ。単純に生活リズムが重ならなくなっただけの話だ。
 勝手知ったる様子で、半兵衛は慶次の部屋へ行き、ノックをしてドアを開けた。部屋着に着替えた慶次が座ったまま半兵衛を出迎える。テーブルを挟んで慶次と向かい合うようにして座ると、ふと包帯の巻かれた左手首が目に入った。
「慶次くん、その手はどうしたんだい?」
「あー……バスケでちょっと」
 帰宅部の慶次はその運動神経を買われて多数の部活の助っ人に入ることがよくあった。今日はバスケ部の助っ人に行くのだと聞いていたが。
「助っ人で怪我したのかい? 全く君も懲りないね」
「うるさい。大したことないからいーの」
「約束を守る気なんかないじゃないか」
「うぐ……それはさぁ」
 へらへら笑う顔に腹が立って嫌味を零せば、慶次は途端に苦虫を噛み潰したような顔になって唇を尖らせた。その顔に少し溜飲が下がり、まあいいけどね、と半兵衛は表情を緩めた。
 そんな君だから、親友でいたいんだよ。
 口にすれば確実に照れるであろう言葉を、半兵衛は無理やり飲み込んだ。






+end+






+++++



友垣……!
というか、半兵衛と慶次の話。
気分的に半→慶で書いたせいか、半兵衛がらしくないことこの上ない(笑)
一応半+慶のつもりです。
現代パロで、しかも子供だったら泣いてくれるかな、と。
みんな慶次大好きだったらいいよ!
特に友垣が慶次大好きだったらもう私漲るぁぁぁぁっ!!!!!






2011.01.27.