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豊臣の忘れ形見、石田三成。 秀吉からも半兵衛からも一度も聞いたことのなかった名前。三成の方も俺の名前を二人から聞いたことはなかったらしい。 秀吉を盲目的に信奉する三成にしてみれば、俺の存在は目障りなんじゃないかと思う。秀吉の元親友なんて立ち位置は。 なのに、西軍に雇われた雑賀衆にくっついているうちに顔を合わせることがあって、そのときから妙に懐かれてしまった。用もないのに俺のところに来て、何もせずに帰っていく。 ほんの少し居心地が悪いけど、懐かれるのは悪くない。周囲の評価を裏切って、結構可愛いところもあるし。まあ、どうせなら女の子に懐かれたかったというのは男の本音だろう。 「前田慶次!」 勢いよく障子を開け、ずかずかと三成が入ってくる。三成の後ろで雑賀の人たちが慌てているのを見ると、今日もいきなりやってきたのだろう。俺は彼らに孫市への連絡を頼んでから三成を招き入れた。 「いらっしゃい。今日も連絡なしに来たんだろ」 三成はむすっとした表情を崩さないまま顔を背けた。これは三成がバツの悪いときによくする仕草だ。子供みたいだ、と俺は苦笑を漏らす。 笑い声に気付いた三成に射殺すような目で睨まれた。 「ま、風来坊の俺が何か言えた義理じゃないんだけどさ。で、今日はどうしたんだい?」 手元の掃除用具を置いて、三成に向き直る。俺は部屋中の掃除の途中だった。孫市が俺にくれる仕事は家の雑用ばっかりだ。 三成は一度唇を噛みしめるともう一度俺の名を叫んだ。 「撫でろ!」 ギリギリと俺の胸を潰すように抱きついてくる。苦しいと訴えるけど、離してくれそうにない。 「な、撫でろって、頭を?」 「そうだ。拒否は認めない」 抱きつく腕の強さを緩めることなく、むしろ強くしながら訴える。 昨日は膝枕で寝かせろ、だったっけ。何がしたいのかよくわからないけど、とりあえず願いを叶えてやることにしている。吉継曰く、これは三成なりの甘えらしいから。 「わかったから少し力抜いてくれよ」 ん、と短い返答があって、ほんの少し力が緩んだ。だけど、ほんの少しだから苦しいことに変わりはない。 苦しさを我慢して銀色の髪を撫でる。半兵衛も銀髪だったけど、三成の方が強い色をしている。鋼色っていうんだっけ。刃の色に似ている。 特徴的な髪形にもかかわらず、存外柔らかい髪は武骨な俺の手にもすんなり馴染んだ。少し強めにくしゃりと撫でると顔をぐりぐりと押し付けられる。苦しいと言ったのを覚えているのか、その力は弱々しかった。 「三成、満足したか?」 「まだだ。まだ撫でていろ」 しばらくずっと撫でているのに、まだ三成は満足しないらしい。そろそろ立ってるのもつらくなってきたんだけどなー。 座りたい、と言おうとしたその瞬間、三成が来たときと同じくらいの勢いで障子が開いた。 「孫市!」 三成が来ているという連絡は入れてもらったけど、まさかここに来るとは思わなかった。三成が来ているときに俺のところに来るのは初めてだ。 「どうしたんだい、孫市。忙しいって言ってなかったかい?」 「……石田が来ているのか」 その話は聞いていただろうに、孫市は改めて確かめるように呟いた。俺と俺に抱きつく三成を見て、不愉快そうに眉をひそめる。腰に回された三成の腕の力が強くなった気がした。 俺はわけがわからず首を傾げるばかりだ。 「前田、仕事はどうした」 「この状態でどうやって掃除しろって!?」 立ったまま三成に抱きつかれて、頭を撫でるように強要されて、どうして仕事ができるっていうんだ。 「……石田、いい加減前田から離れろ」 訴えると、孫市の矛先は三成に向いた。なんだか怒っているように見えるのは気のせいだと思いたい。 「拒否する」 「離れろ。ただでさえその男はただ飯ぐらいなんだ。仕事をさせろ」 孫市、その発言はひどい。 「今日の前田慶次の仕事は私の相手をすることだ」 三成、それも違うと思う。 こっそり睨み合う二人に口を挟むこともできず、困ったまま三成の頭を撫で続ける。 こうしていると子供みたいで可愛いんだけどな。と現実逃避的なことを考えているうちに二人の間で決着がついたらしい。殺気すらこもった視線を向ける孫市が苛立ちも露わに部屋を出て行った。 「前田、あとで私の部屋に来い」 そんな捨て台詞を残して。 いつも冷静沈着な彼女が感情を露わにするのは珍しい。というか、ものすごく怒っているらしい孫市のところに行くのは怖いな……。 「――な」 「ん?」 「行くなと言っている!」 「え?」 二度は言わないとばかりに叫ぶと、ぎゅうぎゅうと腕に力を込めた。今度は苦しいと言っても聞いてはもらえなかった。ますます腕に力が入る。 本当にわからない。孫市も、三成も。 とりあえず今は機嫌を損ねたらしい三成の頭を撫でてやることにした。 +end+ +++++ ついに慶次受けに手を出しましたよコノヤロー。 でも、三慶とか家慶とかマイナーばっかりです。 幸慶とか政慶には萌えないんだこれが。 読むのは好きですが。 どうしたって三慶、家慶以外で婆娑羅メンツを考えるとルークと絡ませたくなります。 誰得? 俺得! 慶次とルークの組み合わせはマジ可愛いです。 2010.12.10. |