信じられない、というのが最初に思ったことで。
 俺は驚愕して動けなくて、その光景を目に焼き付けてしまった。
 半兵衛が、女の子を抱き締めているシーンを。
 半兵衛よりも頭一つ小さい彼女。細身の半兵衛よりも小さくて細くて、守ってあげたくなるような少女だ。ふわりとウェーブのかかった長めの髪は、多分こんな場面じゃなければ可愛いね、と言ってやれただろうに、フリーズした俺の頭はそんな簡単な言葉さえ吐いてくれない。
 俺は親友の半兵衛に彼女ができたことを素直に祝福できないでいた。
 驚きに目を見開く半兵衛の顔が、こんなところ見られたくなかった、と言っているように見える。
「どう……して、」
 漏れ出た言葉は多分俺の本心だ。
 うまく喋れない今出なければ、きっとこう続いたに違いない。どうして、女の子を抱き締めてるんだよ、と。
(だって、彼は俺のことが好きだって言ってたのに)
 毎日のように好きだって言って、答えられない俺にずっと待つからって、いつまでも待つからって。
「言ってた、のに……!」
 呟いた言葉と思考に我に返り、俺は逃げるように駆け出した。走る先なんてわからない。
 ただただ、半兵衛のいないところに行きたかった。






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「慶次君!」
 確かに彼はこちらを見ていた。それは絶対だ。何故ならここは彼の家の手前だから。彼が家に帰るためには、確実にここを通る必要がある。
 だというのに、僕らを見て硬直した後、彼は逃げてしまった。傷ついたような表情を見せて。
 何が理由かはわからない。けれど、僕は追いかけなければいけないと思ったんだ。今追いかけなければ、もう二度と慶次君と過ごせなくなる。
「ねねくん。悪いけど、僕は、」
 抱きとめていたねねくんに断りを入れる。
 できるなら秀吉が来るまで待っているべきだろうが、今の僕にそんな余裕はない。軽くはない病気を持つ彼女には申し訳ないのだけれど……。
「半兵衛、追いかけて来い」
「秀吉!」
 玄関先から出てきた秀吉を見て、小さく息を吐く。もう心配はいらない。
 ふわり、彼女のウェーブのかかった髪が風に揺れる。彼はもしかしたら、彼女とのことを誤解してしまったのかもしれない。そんな考えが頭に浮かんだ。
「そうよ、私は秀吉がいるから大丈夫よ」
「すまない。行かせてもらうよ!」
 笑って送り出してくれたねねくんと秀吉を見向きもせずに、僕は走り出した。
 大切で愛しい彼を追いかけるために。






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 走っていく半兵衛を見送ったねねは、どうしても笑ってしまう口元を押さえた。ねねの肩を支えるようにして持つ秀吉が渋い顔をしたのが、見なくてもわかった。
「ふふ、ようやく動くんだから」
「ねね、楽しんでいるな?」
「当然よ。だって、生まれた時から見てきたんだもの。それくらい許されるはずだわ」
 ねねと同じ歳の半兵衛と、それよりも数年遅く生まれてきた慶次。ねねと秀吉と半兵衛と慶次の四人は同じく幼馴染だったはずだが、半兵衛が見ていたのは慶次だけだった。そして、慶次の初恋がねねだとしても、次第にその対象が動いていたのにも気づいていた。
 結局のところ、お互いはお互いのことしか話題に持ち出さないのだ。
「あまりあの二人をいじめてやるな」
 慶次が何を見て、どう勘違いしたのかは見当がついている。貧血気味でふらついたねねを抱きとめた半兵衛に裏切られたとでも思ったのだろう。
 顔が見えないように半兵衛の胸に飛び込んだのはちょっとした賭けだった。半兵衛の肩越しにポニーテールが見えていたから。
 秀吉はそれを責めているらしい。
「でも、あなたもあの二人のことじれったいって思ってたでしょ?」
「……まあ、な」
 尋ねれば、秀吉は渋い顔で頷く。炊きつけるようなやり方は好まないまでも、やはりじれったいとは感じていたようだ。
「じゃあ私と同罪だわ」
 傍から見ていて、ひどくじれったかった。
 だからほんの少しだけ、悪戯をしただけ。秀吉が来るのが遅いからいけないんだわ、とねねは秀吉の胸に飛び込んだ。
 秀吉はよろけることもせず、当然のように受け止めてくれる。
「それにしても、慶次もよほど動揺していたのだな」
「え?」
「慶次がお前のことを間違えるはずがあるまい」
「それもそうね」
 彼らが返ってくる頃には、きっと照れたように笑う二人が見られるに違いない。恋人の胸に甘えるようにすり寄りながら、ねねは彼らの未来を思って微笑んだ。






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突発すぎますが、半慶も大好きです。






2011.02.18.