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唐突にP3荒垣×男主。 男主の名前は神藤浩輔(名前はほとんど出てきません)。 10月の満月の後、荒垣先輩が助かっていて、ずっと眠っていたという設定で。 ポタリ。 頬に何かが落ちる感触がした。冷たい液体が頬を濡らす。一定のリズムを刻んで、絶え間なく落ちてくる。 それが頬を伝うと、何故か悲しい気分になる。あの表情を動かさない後輩が泣いているような、気がして。 冷たいそれに誘われるように、荒垣は目を開けた。 最初に目に入ったのは、真っ白い天井。見慣れない天井に、自分がどこにいるのかわからなくなる。しかし、しばらくぼんやりしているうちに、なんとなく自分の置かれた状況を思い出してきた。 自分は、死んだはずだった。天田の復讐を受けようと彼の呼び出しに従い、天田の母親を殺した日の影時間に路地裏へと向かった。 そこで天田に殺されるのを受け入れようとしたが、途中でストレガの乱入に遭い、天田を守るために天田を庇って銃弾を受けた。天田に思いを告げ、真田に彼を任せて、最後に見たのは荒垣の心を占めてやまない後輩の姿だった。 表情の揺らがない彼が泣きそうになっていたのを見るのは、初めてだったように思う。 大切だった。 愛おしかった。 何一つ伝えることはしなかったけれど。 最期に彼を見ることができてよかった。そう思いながら、目を閉じた。 そして、開くはずのない目を開けて視界に入ったのが白い天井。鼻につく薬品の匂いから、ここが病院であることがわかる。何故死んだはずの自分が病院にいるのか、わからないまま視線を巡らせて。 荒垣はぎょっとした。 彼が泣いていた。 ベッドの傍の椅子に座り、目を開けた自分を信じられないものでも見るような目で見つめ、静かに涙を流している。彼は自分が泣いていることにも気づいていないようで、澄んだ青い瞳を目一杯見開いていた。 「荒垣……先輩?」 「ああ」 どのくらい寝ていたのだろう。出した声はひどく掠れていた。 「荒垣先輩、起きて……っ」 声が震えている。彼とは短くも濃厚な付き合いをしてきたけれど、こんな声を聞いたのは初めてかもしれない。 初めて見る表情ばかりだな、と口元に苦笑が浮かぶ。同時に、悲しい表情をさせてしまった自分に腹が立った。 それでも、自分のためなんかに泣いてくれた彼が愛しい。 とはいえ、好きな相手の泣き顔をいつまでも見ていられず、荒垣は乱暴に彼の目許を拭った。泣きやませ方なんか知らない。彼の涙を拭うことしかできなかった。 「……え?」 荒垣の手が涙を拭うと、彼は呆然と目を瞬かせた。泣いていることを自覚していなかったらしい。自覚しても涙は止まらず、頬に添えた荒垣の手を濡らしていく。 「僕、泣いてる……?」 「泣いてるよ。で、泣かれてたら俺が困るから泣きやめ」 「先輩が困るからですか。……でも、僕、泣けたんだ」 彼はどこか他人事のように呟いた。怪訝に思いながら意味を聞くと、彼はほんの少し目元を和らげる。 「僕、小さい頃から泣いたことがなかったんです。両親が死んだときも、泣けなかった」 それから親戚をたらいまわしにされて、ますます感情を忘れていって。もう一生泣くことはないんだろうと、他人事のように考えていた。困らないからどうでもいいだろうとも。だから、泣けることに驚いている。 そう告げる間も、彼は涙を流したままだった。体温のない荒垣の手が、彼の頬のぬくもりと涙の冷たさを感じる。 荒垣は舌打ちをひとつすると、彼の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。腕に力が入らない分、それはいつものような乱暴なものにはならなかったが、それでも構わず髪をかき回す。 「じゃあいっぱい泣いとけ。十六年分だ。俺が泣かせてるってのが気にくわねぇが……」 荒垣の言葉に一瞬目を見開いた彼は、わなわなと唇を震わせ、荒垣に抱きついて泣き始めた。彼の泣き声が病室に響く。 荒垣は複雑な気持ちでその頭を撫でてやった。感情の発露ができるのならそれでいいとは思うのだが、涙の訳が自分だというのが腹立たしい。しかも、死にかけた自分のせいだとは。 けれど、と思うこともある。 ポタリと頬を濡らした何かは、きっと彼の涙で。彼の涙によって、荒垣は帰ってくることができた。彼が泣いてくれたから、永劫の闇に呑まれることなく光を見つけだすことができた。 これからはきっと、逃げないで生きていける。 「神藤、ありがとな」 泣いている彼にも聞こえないように、荒垣はそっと呟いた。 +++++ この男主人公は感情をまったく表に出さない子で、寮に入ってからだんだんと感情を取り戻してきたんだけど、悲しいって方向性に関しては荒垣先輩のことで初めて決壊したっていう裏設定があったりします。 2010.02.19. |