屋敷に面した広い庭に、カン、カン、と木刀の打ち合う音が響く。一定の間隔で聞こえるそれは、ルークの楽しげな声に遮られた。
「やっぱ稽古って楽しいなっ」
「そっかぁ」
 一歩引き木刀を構えなおすと、ルークは小柄な体を生かして素早く俺の懐に潜り込んできた。放たれる剣戟をすんでのところで受け止める。
 力はないけど、素早いルークの剣は気を抜くとまともに剣が入るから、うかつに余裕をかましてはいられない。もちろん、ルークはそこまで強くはないから、気を抜かなければ簡単に避けられる。ルークとの稽古は手の抜き方が難しい。
「ルークは稽古好きだよな」
「当たり前だろ! 屋敷にいるときはこれしかできなかったし」
 打ち合いながら会話を続ける。
 その中に気になる言葉を見つけた気がして、木刀を握る手が緩んだ。ルークはその隙を見逃さず、木刀を振りかざした。
「もらったっ!」
「うわっと!」
 咄嗟に手加減できず、思い切り木刀を振り抜く。ルークの渾身の一撃はあっさりと弾かれ、ルークが握っていたはずの木刀は茂みの向こうに消えた。
「何だよ慶次。いきなり本気出すなよな」
「悪い悪い。ちょっと考え事してたからさ」
 考え事と聞いて、ルークが口を尖らせる。子供のような仕草はもう見慣れたものだ。
 夕焼け色の髪を撫でてやって、その場に腰を下ろす。
「なあ、ちょっと聞いてもいいかい?」
「何だよ?」
 木刀を探しに行くこともなく、ルークも隣に腰を下ろした。俺を見上げる新緑の瞳は不思議そうに瞬いている。
 少し躊躇ってから、でもやっぱり聞いてみることにした。
「屋敷にいたとき、それしかできなかったって、どういう意味だい?」
 音を立てて、ルークの表情が固まった。やっぱり触れるべきじゃなかった。慌ててなかったことにしようとするけど、それより先にルークが口を開いた。
「そのまんまの意味だよ。俺は叔父上の命令で屋敷に閉じ込められてたから、何もすることなくてヒマだったんだよな」
 淡々と告げるルークの声に感情はなかった。事実だけを告げる色のない声は、かえってルークの諦観を感じさせる。
 奥州に遊びに行ったときに、少しだけルークの屋敷の話を聞いたことがある。
 愛そうとしない親、腫れ物にでも触るかのような態度の使用人、冷たい視線を向ける親友と師。どんな環境か簡単には想像できないけど、七年間ずっとそれが続くのは怖いものだと思う。それを、ルークはずっと耐えてきたんだ。
「時々来るヴァン師匠に稽古つけてもらったり、ガイと打ち合ったりするしかすることなかったんだ」
 屋敷の中はつまんなかったな、なんて笑うルークは、今にも泣きそうに見えた。
 ぐっと唇を噛みしめてルークを抱き寄せる。年の割に華奢な体は腕の中にすっぽり収まった。
 この細い体に、どれだけの諦めを抱えてきたんだろう。
「慶次?」
 不思議そうな声音が俺の名を呼ぶ。俺は心の内を悟られないように、にっこりと笑う。人の心の機微に聡いルークはそんなんじゃ誤魔化されてくれないけど、それでも。
「ルークが可愛かったから、つい」
「な、何言ってんだよバカ!」
 抱き締める腕に力を込めた。ルークが痛くないように、でもきつく。
 ルークが抱えるものが、少しでも軽くなればいいと、祈りながら。






+end+






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「泣きそうな顔で君が笑うから、抱き寄せたくなるんだ」というフレーズを使いたくなったがために書かれた突発もの。
時間軸を気にしてはいけません(ぇ
適当にどこかで剣の稽古をしているという設定……(アバウトにもほどがある
ルークは自覚なしで泣きそうな顔で笑う子だと思います。






2010.05.19.