キラキラと目を輝かせてあれは何だこれは何だと聞いてくるルークが可愛くて、もっといろんな所を一緒に回ってみたくて、俺は少し遠くまで出ていくことを提案した。
 何事にも興味津々なルークが断るはずもなく、俺たちは甲斐の国に向かっている。あそこには面白い集団の武田軍がいるし、近くには独眼竜がいる。謙信のとこも近かったかな。
 とにかく、たくさんの知り合いにルークを紹介できるし、ルークにはたくさんのものを見せてやれる。
 気分はすっかりお兄さんだ。
 まつ姉ちゃんにしても利にしても、俺は弟で子ども扱いばっかされてきたから新鮮な気分だ。
 強く握られた手を、離したくないと思う。
 武田信玄の屋敷に到着した。律儀に真正面から入っていこうとするルークを引き止めて裏に回る。
 怪訝そうなルークに俺は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「正面から入ったって面白くないだろ? こっそり入って驚かせてやろうぜ」
「それもそうだな!」
 ルークも満面の笑みだ。
 俺もだけど、ルークも結構悪戯好きだよな。
 裏手の塀に飛び乗る。同じ芸当はできないルークの手を取って引っ張り上げた。
 塀の上で一息ついたルークはどこか呆れたようなため息をついた。
「いつも思うけど、慶次ってすげーよな」
 拗ねたような、けれど感動を隠しきれない瞳で見つめられる。ルークが言うからなおさら嬉しい。
「そのうちできるようになるさ」
「できてたまるかってーの」
 頭を撫でてやるとルークは嬉しそうに笑う。
 最初は恥ずかしそうに手を振り払ってたけど、ホントは撫でられるのが嬉しかったんだと後になってこっそり教えてくれた。
 もう一度頭を撫でてから、俺は塀を飛び降りた。同じように飛び降りるルークを受け止めて屋敷の奥に歩いていく。
 多分幸村は修練場にいるだろう。佐助も一緒かもな。
「なー、幸村ってどんな奴?」
「幸村ぁ……?」
 幸村は一言でいえば熱血漢。暑苦しくてちょっと鬱陶しいかもしれない。恋という言葉を出したくらいで真っ赤になって反論してくる初心な奴、かな。
「ふぅん……」
 屋敷の客間に面した修練場に近づく。
 案の定幸村が一人二槍を振り回して鍛錬をしていた。その後ろ姿からは何故か炎が上がっているように見える。
 それを見たルークがすげーと呟いた。
 驚かせてやろうと後ろから近づいていく。
「やー、前田の風来坊さん。何の用?」
 猿飛佐助が一瞬にして俺たちの前に現れた。ルークが目を丸くして息を呑む。佐助が発する微妙な殺気に気付いたのか、慌てて俺の後ろに隠れて顔だけを覗かせる。
 ったく、毛を逆立てる子猫みたいだ。
「お久しぶり、佐助。幸村に会いに来たんだけどいいかい?」
「旦那に用か……。ま、アンタだからいいけどさー、ちゃんと正面から入ってきてくんないと俺様困っちゃうなぁ」
「悪かったよ。幸村を驚かせようと思ってねぇ」
「それは面白そうだから推奨するけどさー」
 くつくつと笑う佐助。ひとしきり笑って、ふと俺の腰にしがみつくルークに目をやった。じっと品定めするように眺めている。
 居心地悪そうにルークが目を逸らし、次いで警戒する子猫のように佐助を睨みつけた。
「何だよっ!」
「この子は?」
「ルークっていって、俺が拾った異国の子。人攫いにあったみたいでさ、今のところ俺が預かってる」
 くしゃりと朱色の髪をかきまぜる。
 佐助はルークの髪と目の色を見て異国の子供だと確認したらしく、警戒を解いた。飄々とした、気配の読めない青年になる。
 こうなるとただの面倒見のいいお兄さんなんだけどな。侵入者が俺だとわかってても警戒するのは優秀な忍として当然のことだとわかってはいるけど。
 佐助の敵意が消えて、ルークも僅かに力を抜いた。でも俺の背中から出てこようとはしない。
 すっかり警戒を解いた佐助がルークの顔を覗き込んだ。
「ルークちゃん?」
「誰がルークちゃんだ! オレは男だっつーの!!」
「え、ウソ」
 珍しいこともあるもんだ。
 本心を滅多に表に出さない佐助が目を丸くしている。
 あ、これ幸村驚かせるより面白いかも。
 というかルーク、女に間違われすぎだろう。京にいたときもそうだったけど、初めてルークを見た奴は大概ルークを女と勘違いする。
 確かにやることなすこと可愛いけどさぁ……。
「なんだよ、みんなしてオレのこと女と間違えやがって!」
「ごめんってば。あんまり綺麗だったから、ね?」
「ね? じゃねー!」
 ルークの方も警戒心をなくしてしまったらしい。俺の背中に隠れてたのにもう佐助とじゃれ合っている。
 なんとなくムカつくのはなんでだろ?
「はいはい。そんなに怒るなよ」
 ルークの腰に腕を回して引き寄せる。きょとんとした表情で俺を見上げるルークが疑問を口にしようとした途端。
「佐助、どなたが参ったのだ?」
 修練を終えた幸村が俺たちに気付いた。