「あの二人は前田利家とまつと言ってな、アイツの叔父夫婦だ」
 大きな大きなため息をひとつついて、かすがは説明する。
 毎度のことだから慣れているとはいえ、さすがに呆れはするらしい。前田の旦那は軍神とは友人だという話だから、全国行脚をする彼は一番越後に寄っているんだろう。
「叔父夫婦?」
「ああ。大切な家族だと言っていた」
 家族を心配させるようなことをするなと謙信様がいつも仰っているのに。
 ブツブツと前田の旦那へと文句を言うかすがとは対照的に、ルークちゃんはわずかに顔を俯かせ視線を落とした。落ち込んでいるように見えなくもない。とはいえ、次に顔をあげたときにはもういつもの元気なルークちゃんだったけど。
「なあ、それより、城下行くのどうすんだよ」
 さっきの不穏な感情を見せることなくルークちゃんは旦那の袖を引っ張る。うーん、なんて旦那は悩みだしたけど、俺は見逃さなかった。
 唇だけで呟いた、家族という言葉。ほんの一瞬よぎった、期待と諦めの色。
 ルークちゃんはあの小さな体に何を抱えているんだろう。時々、あの子がわからなくなる。
 格好と言動だけを見ていれば、ただのいいとこの箱入り息子なんだけど、時々見せる暗い表情が異質さを生む。大切に育てられているにしては、抱える絶望が深すぎる。
 前田の旦那は気付いているみたいだ。真田の旦那も、本能的なものだろうけどきっと気付いている。
 そんな表情を俺がなくすことができたら、なんて、高望みしすぎだよねぇ。
 自分で考えたことを自分で否定してしまったことに苦笑を零して、ルークちゃんの頭をくしゃりと撫でた。
「前田の旦那はいないけどさ、行っちゃえばいいんじゃない?」
「やっ」
 ルークちゃんは一瞬大げさなほど体を震わせ、恐怖を滲ませた目で俺を見やった。触れたはずの手は強い力で弾かれる。今まで見たことのない反応に驚いて、俺はらしくなく目を丸くした。旦那もかすがもびっくりしている。
 でも、一番驚いていたのはルークちゃんだった。迷子になったような表情を見せると、すぐに顔を逸らした。
「が、ガキ扱いすんなっつーの!」
 その言葉が嘘であるということは、誰の目にも明白だった。
 どうしてルークちゃんが俺の手を払ったのかはわからない。ただ、ルークちゃんの見え透いた嘘に乗るべきだということはわかった。だから、いつものようにへらりと気の抜けた笑みを浮かべる。
「あはー、ごめんね? ルークちゃん可愛いからさ、つい、ね」
「可愛くねぇーっ! これでも幸村と同じ歳って何回言えばわかるんだよ」
「え、そうだったのか!?」
 誤魔化しのそれにかすがが本気で乗ってくる。そうすると旦那も一緒になって不穏な空気を忘れてしまう。
 俺としてはそう狙ったんだからそれでいいんだけど、旦那、武将としてそれはどうなの。
「さて、行くならさっさと行こうね。旦那は執務も溜まってるわけだし」
「言うな、佐助!」
 ぎくりと肩を震わせた旦那はおそらくすっかり忘れてしまっていたんだろう。言ってよかった。
 ちゃんと仕事しろよ、なんて怒られている旦那は飼い主に怒られた犬みたいだ。なんとなくほのぼのした気分になって、笑みが零れた。






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う、動かない……!






2010.11.25.