縁側に座り、団子を頬張る幸村。その隣にルーク、ルークの逆隣に俺、幸村の側には佐助、俺の隣にかすがちゃん。そう並んで、茶を啜っていた。
 一刻半ほど稽古を続けていたルークは喉を鳴らして茶を飲み干す。茶を嚥下するたびに動く喉に目がいって、変な気持ちになった。
 いや、うん。もちろん顔には出してない。忍さんたちは気づいてるかもしれないけどね。
 ルークが一息ついたところで、団子を差し出しながら声をかけた。
「明日、城下に行ってみないかい?」
「ひょうか?」
「あーもう、口にもの入れたまま喋らない!」
 注意する佐助はまるで母親。思わず笑いそうになってしまう口元を必死で押さえて、不思議そうなルークに頷く。
「ここの城下も結構賑やかなんだぜ? 越後の軍神のお膝元ってね!」
「行ってみてぇ!」
 勢いをつけて膝を叩くと、かすがちゃんがその通りだと大きく頷いた。そして、手元の湯呑を壊れんばかりに握り締めていかに城下が素晴らしいか語り始める。いつの間にか自分と同じ名を持つ城に話がすり変わって、謙信の話へ。
 周りの見えてないかすがちゃんに、ルークは目を丸くしてる。かすがちゃんが謙信のこと好きなのは知ってるはずだけど、実はこれ見るの初めてなのかも。
 幸村、佐助に視線を向けると、佐助が苦笑を返してくれた。ちなみに、幸村は団子で精いっぱいだ。
「かすがー、ちょーっと戻っておいでー」
 佐助の声に我に返って、かすがちゃんは慌てて平静を取り繕う。とはいえ、俺はもう見慣れてるし佐助も多分気にしてなくて、幸村は団子に夢中。気になるのはルークくらいだけど、ルークはびっくりした表情をほんの少し緩めただけだった。
「かすがって、ホントに謙信のこと好きなんだな」
 ほう、と、感心したように、呆れたように、ルークは声を漏らす。
 その声にどこか羨ましげなものが含まれていたような気がして、俺は息を呑んだ。佐助もかすがちゃんも、幸村でさえも言葉を失う。
 急に静かになったその場に、ルークは慌てて言葉を重ねた。
「な、何だよっ。変なこと言ったか!?」
「……ぜーんぜん。かすがが軍神のこと好きなのは見てて丸わかりだしねー」
「な、違う! 私は謙信様のお役にたてればそれで! 好きだなんて恐れ多い……」
 最初に自分を取り戻したのは佐助。かすがちゃんも戻ってきて、いつも通りの雰囲気になった。ルークも普通に笑ってる。
 ほっとして茶を飲む。放っておかれた茶はすっかり冷たくなっていた。
「ルーク殿っ! 某は、その、あのっ」
「何、だよ?」
 団子を飲みこんで、幸村はルークに詰め寄る。必死な顔と両手に持った団子がすごい違和感だ。
「明日、皆で城下へ行きましょう。越後も甲斐に劣らず素晴らしい国にござる。買い物をして、茶屋に行って、それで……!」
 必死に言い募る幸村が何が言いたいのか、なんとなくわかった。言葉が見つからないらしい幸村に代わって、ぐしゃぐしゃとルークの頭を撫でる。
「そうと決まれば、謙信と虎のおっさんに言ってこないとな」
 楽しいことならたくさんあげるからさ。そんな顔しないでくれよ。
 そう告げたら、きっとルークは困ってしまうから。本当のことは言わない。
 不思議そうなルークを、その朝焼けの髪を撫でることで誤魔化した。






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2010.08.10.