まるで飼い主に構ってもらいたい犬のように、旦那はルークちゃんについて回る。ルークちゃんが鬱陶しくならないのかなって思うくらい。実際聞いてみたら思わないって返ってきたけど。
「ルーク殿、手合わせ願いまする!」
「おうっ!」
 今度は剣の稽古らしい。
 旦那は強い相手と闘うのが好きだ。竜の旦那然り、前田の旦那然り。だけどルークちゃんは特別みたいで、こっちが口を挟まないといつまでもやっている。
 旦那の気分的には自分が教える立場にいるから新鮮なんだろうけど、ちゃんと見て休憩させないと大変なことになる。前に甲斐にいたときはルークちゃん倒れる寸前だったしね。
 そんなわけで、稽古のときは縁側に座って見学している。もちろん前田の旦那も。今日はかすがも一緒だった。
「真田の旦那もルークちゃんもよくやるよねぇ」
「奥州にいたときも稽古は欠かさなかったしな」
 茶をすすりながらしみじみ言う俺たちに、かすががため息をついた。よっぽど呆れたらしい。けど、いなくなることはしなかった。
 代わりに口にしたのは、こんな言葉。
「あんなにまとわりつかれて、ルークはよく我慢できるな。私なら四半刻もしないうちに怒る自信があるぞ」
「まあ旦那は暑苦しいしねぇ」
 大事な主ではあるんだけど、あの性格はさすがの俺様でも嫌になるときがある。かすがの言葉にも言い返しはしなかった。
「少しは謙信様のように落ち着きを持つべきだろう」
「うわ、やめろよかすが。そんな旦那、想像したくもない」
「しかし、あれではうるさすぎるぞ。まるで子供のようだ」
「あー、それは否定しない」
 言いたい放題な俺たちに、前田の旦那は苦笑を零しただけだった。普段恋だの愛だの語って軽い調子の彼らしくなく、ひどく優しい目をして稽古中の二人を見やる。
「幸村はほら、嘘がつけないからさ。ルークも楽しいんだよ」
「……そりゃ旦那が嘘つけるわけないっしょ」
 戦ばかりのこの世の中で、旦那みたいな存在は珍しくて貴重なんだろう。真っ正直で、偽ることも策を立てることも嫌いで、いつだって真っ直ぐ前を見据えていられる男。俺がどれだけその光に救われてきたのか。本人には言わないけれど、旦那の存在あってこその俺だ。
 とはいえ、旦那に言わないからといってそんなことをこの二人に言うはずもない。
「だけどさ、旦那ばっかりにルークちゃんとられてるのは気にくわないんだよねー」
 お茶菓子の準備よろしく、とかすがに告げて、旦那たちの稽古に割り込みに行く。木刀がぶつかる瞬間に割って入って、二人の木刀を手裏剣で受け止めた。
「はいはいお二人さん、その辺で一休みしない?」
 旦那は少し驚いたようだったけど、素直に頷いた。どことなく不満そうなのはこの際無視だ。団子があるよ、と言えば旦那は縁側に走っていく。
 ルークちゃんも、と促すが、ルークちゃんは木刀を下ろすと俺に掴みかかってきた。慌てて手裏剣を引く。
「いきなり間に入ってくんなっつーの! 危ねぇだろ!」
 一瞬目を丸くして、俺様に限ってそんなことはないんだけど、と心中で呟いて頷くだけにしておいた。






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幸村は太陽みたいな存在で、気づかないうちに心の闇を照らしているんだろう。






2010.08.06.