朝、オレの髪を何とかしてくれるのはいつも慶次だった。でも、越後にいる間はかすががやるって言いだした。
 断る理由もねーし頷いたけど、かすがのすげー恰好は目のやり場に困るからちょっとどぎまぎする。
 かすがはオレの腰まで届く長い髪を丁寧に梳かして、慶次みたいに高いところで結んでくれる。その手つきが優しいからやっぱりドキドキしてしまう。
 屋敷にはここまで大事にやってくれた奴なんていなかったからな。ガイは楽しそうにやってたけど、かすがも楽しいのかな。
「なあ、髪梳かすのそんなに楽しいか?」
「ああ。こんなに美しい髪は見たことがない。朝焼けの色だな」
「そ……か」
 かすがの声は心からそう思ってる声で、思わず言葉に詰まった。すげー恥ずかしい。
 黙ってしまったオレを不思議に思ったのか、かすがが顔を覗き込んできた。その近さに顔に熱が集まる。
「どうかしたのか?」
「な、何でもねーよっ! つーか、男に向かって綺麗綺麗言いすぎだっての。綺麗ってのはお前みたいな奴に使うもんだろ」
 誤魔化しついでにずっと思っていたことを言うと、今度はかすががどもり出した。心なしか顔が赤い気がする。首を傾げると前を向け! と怒られてしまった。
「私なんかより、謙信様の方がお美しいんだ」
 うっとりとした調子で言われて、口を挟むことなんかできなかった。
「それに、お前の髪が綺麗なのは紛れもない事実だ。諦めろ。前田慶次だってそう言うだろう」
 オレが困って口を出せないでいると、かすがは勢いに乗って話していく。
 見なくてもわかる。絶対に目がキラキラ輝いていて、髪に触ってない方の手は握り拳になっているんだ。
「だいたい、お前は容姿が綺麗なうえに可愛い性格をしているんだから、もっと気をつけるべきなんだ。佐助を見てみろ、ひどい顔だぞ」
「ひどい顔ってなんだよ?」
「普段の忍としての顔が見る影もないほど崩れているということだ。幸せそうで気持ちが悪い」
 そうは思えないんだけど。
 佐助はいつも笑っている。他に見る顔といえば呆れた顔か困った顔くらいで、他の顔なんか見たことない。佐助の幸せそうな顔……ちょっと見てみたいかもしれない。
「今度お前の方から抱きついてみろ。面白いことになるぞ」
 かすがの声が少し笑っている。オレはやってみようかな、と考え込んだ。
 もしホントにオレが一緒にいることで佐助が幸せそうな顔になるっていうんなら、佐助もオレのこと好きだって思ってくれてるって考えていいのかな。慶次や幸村みたいに?
 って、佐助に政宗みたいになられたら困るけど! 信じていい、のかな。
「ほら、できたぞ」
 とん、と頭を叩かれる。高いところで結ばれた髪を確かめるように撫で、ありがと、と呟いた。
 礼もまだ言い慣れねぇ。気恥ずかしい。
 かすがは気にせず笑って、オレと一緒に立ち上がった。
「これから真田幸村と稽古なんだろう?」
「おう。今日こそは幸村から一本取るんだ!」
 オレが気合いを入れて拳を握ると、かすがは周りに薔薇を咲かせて倒れ込んだ。






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2010.08.01.