目を開けると真っ先に目に入ってきたのは、見慣れた天井ではなくて、四角くない青空だった。
 手に触れる感触は紛れもなく土のそれで、匂いも屋敷の中とは違う。ここの方がずっと草の匂いがする。
「い、つぅ……」
 体を起こそうとすれば全身が痛む。痛みを堪えて体を起こし、何がどうしてこうなったのか考えてみた。
 今日は師匠がしばらく来られなくなるからって特別に稽古をつけてくれたんだ。けど、その途中で歌が聞こえてきて、変な女が師匠に襲いかかったんだ。
 なんで師匠が襲われるのかわかんなくて、けど師匠を助けなきゃって思って、持ってた木刀で斬りかかった。そしたらいきなり目の前が光って、それからわけわかんなくなって……。
 目が覚めたらここにいたってことだな。
 辺りを見回してみるけどここがどこだか全然わからない。
 そりゃ当然か。オレは記憶を失ってから一度も屋敷の外に出たことがないんだから。
 とにかく戻んないと。
 どこに? って考えてしまって、思わず首を振った。
 屋敷に決まってるじゃねーか。
 オレが戻る場所はあそこしかない。あそこしか、ないんだ。
 心を決めて立ち上がる。
 とりあえずここがどこだか確認しねーとな。
 歩いて歩いて、これまで歩いたことないってくらい歩いてみるけど、どこまで行っても見えるのは木ばっかりだ。どこを歩いているのかもわからなくなりながら歩き続けて、やっと木々の中を抜けた。
 出口らしい開けたところで、ようやく人に出会う。みんな見たこともない髪の色をして、見たこともない服を着ていた。
 彼らはオレを見てひ、と息を呑む。その瞳には恐怖の色が見え隠れしていた。オレが近付くと彼らが後ずさる。オニだ、と誰かが呟いたのを皮切りに、一斉に逃げ出した。
「な、何なんだよ……っ!」
 逃げられるようなこと、してねーのに。
 見ず知らずの場所に放り出されて、オレだってわけわかんねーのに怯えられて、頭ん中ぐちゃぐちゃだ。
 不安で泣きそうになってしまう。
「お、アンタが噂の鬼かい?」
 俯き唇を噛みしめて涙を堪えたのと同時に、そんな声がかかる。
 顔を上げると、派手な恰好の男が目の前に立っていた。人懐っこそうな顔で、長い髪を高いところで括っている。着崩した黄色い服の中から小さな猿がキィ、と鳴いて手を振った。手には、柄の長い剣。
 思わず体が後ずさる。
 何か対抗できるものを、と考えて何も持っていないことに気付いた。あの女に斬りかかったときの木刀もいつの間にかなくなっている。
 どうしようもない絶望が駆け抜けた。






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