そろそろ畑に行く時間だと思って、オレは小十郎を探していた。
 畑仕事はオレにとって小十郎と同じように趣味だ。毎日小十郎と一緒に畑に行って雑草を抜いたり肥料をやったりするのが好きだ。小十郎も忙しいときはオレに任せてくれるって言ってくれた。
 にやけた顔でその辺を歩いていた兵士に聞いたら、小十郎は部屋だって言われた。お礼を言って兵士と別れる。途中で政宗に会ってからかわれたけど、そんなのどうでもいいんだ。
「小十郎、入っていい?」
「ああ、いいぞ」
「ありがと」
 中では、小十郎は机に向かって仕事をしていた。仕事が忙しいのかこっちを振り向くことはしなかった。
 オレは小十郎の隣に座って、真剣な表情を見上げる。
「どうした」
「ん、そろそろ畑行く時間だと思って」
「もうそんな時間か」
 筆を置いて肩を鳴らす小十郎。だけど、畑に行こうとはしない。まだ仕事が終わってないみたいだ。
 今日は一人で行かなきゃいけないかな。ちょっと寂しい、かも。
 ほんの少しだけ小十郎のほうに近づいて、邪魔にならないように机を覗き込む。ミミズみたいなわけのわからない文字が紙一面に並んでいる。
 こっちの文字は少しなら読めるようになってきたけど、まだまだ全然読めないから何が書いてあるのかわからない。って、オレが読めちゃダメなんだけど。
「何だ、興味があるのか?」
「興味っていうか……」
 勉強は好きだ。知らないことを知れるのは楽しい。こっちじゃ知らないことだらけだから毎日楽しいんだ。
「じゃあ、今日は文字を学んでみるか」
「へ?」
 目を丸くして小十郎を見返す。小十郎は低く笑って、オレの頭を撫でた。こういうときの小十郎の目はすげえ優しくて、なんだか恥ずかしい。
「文字を教えてやるって言ってんだ。読めて書けた方が便利だろう」
「そりゃ、そう、だけど……」
 小十郎はまだ仕事があるんじゃねーの?
「ちょうど集中も切れてきたところだ。息抜き代わりだから気にするな」
「じゃ、じゃあ、習いたい!」
 文字が書けたら手紙も書けるし!
「じゃあ紙をもらって来い。俺はここを片づけておく」
「わかった!」
 目を輝かせるオレの頭をもう一度撫でて、小十郎は机の上を片づけ出す。オレは弾んだ足取りで部屋を出た。






+++++






 文字を習う。
 それはいいんだけど、この体勢はどうにかならないかと思う。机の前に座ったオレを小十郎が後ろから抱きこむようにして座っている。小十郎もオレも左利きだからって筆を持つオレの手を握って一緒に書いているのだ。
 そりゃ、さ。この方が教える方も教えられる方も都合がいいってわかるけど。
「ルーク、気ィ抜いてんじゃねぇ」
「ご、ごめんなさい……」
 ドキドキするからしょうがないだろ!
 小十郎が説明するのと一緒に耳に息がかかるし、大きな手とか体とか触れるところから熱くなっていく。そのせいで手が震えて文字がぐにゃぐにゃ歪んだ。せっかく教えてもらってるのに、なかなか進まなくて申し訳ない気持ちになった。
「……ごめんなさい」
「何がだ」
 怒っているのか呆れているのか、声からだけじゃ判断がつかない。
「オレが集中できないせいで、息抜きにもなんねぇだろ」
 目標まで全然終わってない。文字を覚えられたかどうかもわかんねぇし。
「馬鹿だな、お前は」
「バカって……!」
 肩を落とすオレに、小十郎はため息をつく。
 咄嗟に言い返そうとしたら、強く抱き寄せられた。びく、と体が震える。
「こんな近くでやってんだ。緊張しないわけがないだろう」
 耳元で、とびっきり低い声で囁かれた。オレの苦手な声だ。胸の奥がきゅうってなって、ドキドキが止まらなくなるから。
 それを悟られたくなくて、わざと大声を出した。
「な、わざとやってたのかよ!」
「てめえが緊張して焦ってんのを見るのは面白かったぜ?」
 声に笑いが混じっている。隠すつもりもないらしい。
 からかわれてるとわかると腹が立ってくる。こっちがどんだけ緊張したと思ってんだよ。
「ふざけんなぁっ」
「こら、暴れんな」
「あ、」
 小十郎の腕の中から逃げようとしていたら、硯に手をひっかけそうになった。小十郎が少し慌てた声でオレの手を掴む。そのまま腕を取られて、つい上を向いたらキスされて。逃げるのも忘れて小十郎の顔を凝視してしまった。
「落ち着いたか」
「う、うん……」
 だけど、ますます文字の練習が手につかなくなったのは言うまでもない。






+end+






+++++



小十郎に勉強を教えてもらいたかっただけの話。
ルークと小十郎の勉強は普通に勉強になるでしょうけど、ルークと政宗様だと無理そう。
手取り足取り腰tゲフンゲフン←






2010.08.26.