てとてとてとてと。
 最近の暁の日課は、元就の後ろをついて回ることだ。どこへ行くにも小さな足で一生懸命元就を追いかける。
 最初元就は追いかけてくる暁を邪険に思い、時に早足になってみたりわざと見つからない場所に行ってみたりしたが、どれだけやっても暁が追いかけてくるので最終的に諦めた。暁は元就の後ろをついて回るが、それ以上特に何をするわけでもないのである。
 一定の距離をつかず離れず。
 執務を邪魔するわけでも、軍議に乱入するわけでもなく、元就の後ろにちょこんと座っているだけなのだ。邪魔だと言うわけにもいかない。
 それに、少し顔を向けてやれば嬉しそうに笑う、から。
「だからその状態だってのか」
「うるさい。即刻帰るがよい」
 今日も今日とて高松城にやってきた元親が苦笑する。今日の暁の定位置は元就の膝の上だ。執務に余裕があるからと、元就が膝に乗せてやったらしい。
 子供を抱えてご満悦のところに元親がやってきたものだから、元就の機嫌は急降下。絶対零度の視線が元親を射抜く。
 だがしかし、元親とて伊達に元就との付き合いを続けてきたわけではない。その程度の視線にはすっかり慣れてしまった。元就を無視して、元親は暁に手を伸ばす。
「暁、こっち来いよ。俺が抱っこしてやる」
「やー」
「ふん。暁も帰れと言っておるではないか」
 暁はどうあっても元就から離れるつもりはないようだ。いつもなら元親が抱きあげようとすれば喜んで近寄ってくるのに、今日はそっぽを向いて元就の膝の上で丸くなる。
 伸ばした腕が空しくとどまった。振られた元親を元就が笑い、これ見よがしに暁を抱き寄せる。優越感漂うその表情は元親の怒りを刺激するのに十分だった。
「暁の決めたことぞ。何か文句でもあるのか」
「元就、テメェ……!」
 怒鳴ろうとして、暁がじっと元親を見つめているのに気づく。純粋な大きな翡翠の瞳に弱い元親は渋々口を閉じた。それでますます元就が優越感を漂わせるから、発散できないイライラが溜まっていく。
 それでも暁の手前怒鳴ることができない。
 怒りを発散できず、元親は無意味に指で畳を叩き始める。
 普段なら人の感情に過敏な暁は、今日は元就に夢中で構ってくれない。けれどせっかく暁に会いに来たのだからすぐに帰ってしまうのも惜しくて、寂しく元就に抱かれる暁を眺めた。元就はもはや元親に興味を失ったらしく、意識は政務に戻っていた。
「――そういや、暁」
「なぁにぃ?」
 ふと、視線を畳を叩き続ける手元に移す。そこには暁のためにと用意した手土産が置いてあった。それを見て、手土産を持ってきていたことを思い出す。
 手土産よりも暁を抱いたまま執務をこなす元就が珍しくて、からかうのを優先してしまったのだ。
 声をかければ、暁は元就の膝の上から返事をする。暁が上機嫌でふにゃふにゃ笑っているから、しょうがねぇなあ、と元親も苦笑を零した。
「海の向こうの国から珍しいモンもらったんだ。食うか?」
「食う!」
 キラキラと目を輝かせて、暁は身を乗り出す。 しかし、それでも元就の膝から下りない辺り暁の気に入りっぷりが窺える。手土産の包みを開けて中から菓子を取り出す。元親が手ずから食べさせようとすると、元就が不意に口を開けて待っていた暁を抱きあげた。
「ぅあ?」
「汚い言葉を使うでない。食うではなく食べると言え」
 こつん、と小さなゲンコツとともに、お叱りの言葉がかけられる。少々しゅんとした表情の暁は、はぁい、と返事をして元親の差し出した菓子を口にした。
 一生懸命に菓子を頬張る暁に、元就の表情が緩む。元親の驚きの視線に気づくとすぐに不機嫌そうに眉を寄せてしまったが。
「なんだよ元就」
「何だ」
「……いや」
 ちゃんと面倒見てんだな、と。
 疑っていたわけではないが、彼は親にするには多少問題がある。毎日来ていたのは、暁に会う以外にも元就の態度が心配だったからという理由もあった。
 全く心配する必要がなかったことを知り、元親は食べることに夢中な暁の頭を撫でた。
「ひぁ?」
「もの食いながら喋んな」
 ありがとう、と心の中で呟いた。冷酷だと言われ続けた幼馴染みがようやく不器用な優しさを垣間見せるようになったのだから。






+end+






+++++



ナリ様のあとをちょこちょこ歩くルークが可愛いな、と思いまして。
でも、暁暁言ってるともうルークかどうかがわからなくなってくる←






2010.11.02.