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避けられてると思う。 最近は特に。 人のいなくなった食堂で自作のケーキを頬張りながら、俺はここのところ頭を悩ませる問題について考えていた。 避けられてるんだ。思うとか、そんな確証なさげな話じゃなくて、絶対。 絶対、避けられてる。 俺の最近の悩みは、部下の1人に避けられているということ。 仮にも真選組副長だし、恨まれるようなことはたくさんやってきた。知らない奴から嫌われるっていうのはよくあることなんだけど、部下から避けられるとは思わなかった。 ちょっと前までは普通に喋ってて、アイツも懐いてくれてた。特に変わったことなんかひとつもなかったのに。 「帰ったぜィ」 「!」 俺の悩みの種が帰ってきた。情けないことに、スプーンを持つ手が震える。 「おかえり、沖田くん」 「ただいまでさァ……副長」 挨拶はそれだけ。 沖田くんは俺の方を見ることもないまま、足早に食堂を出ていってしまう。 「はぁ……」 沖田くんの気配が完全になくなったあと、俺は深く息を吐いた。 アレが、俺の悩みの原因。 一番隊隊長、沖田総悟。 このところ俺をずっと避け続けている。会話は必要最低限だし、目だって合わせてくれない。俺と同じ空間にいるのも嫌なようで、俺が部屋に入るなり出ていかれたこともある。 呼び方も、「銀時さん」から「副長」に変わった。 どうしてこんなことになってしまったのか、自分の行動を思い返してみても、思い当たる節はない。 「嫌われてるんだよな…」 きっと自分でも気づかないうちに沖田くんを傷つけてしまったに違いない。だけど、嫌われてるって口に出してみると結構堪えた。 ツラいなぁ、コレ…。 「バカか」 いきなり頭をぐしゃぐしゃにされて顔を上げると、沖田くんと同じく市中見回りから帰ってきた多串くんつーか土方が目に入った。土方はごく自然に隣の席に座り、俺にお茶を所望する。 茶くらい自分で入れろっての……! 「ほらよ」 「ん」 お礼のひとつも言えねぇのかコイツは。まあ、コイツらしくていいけど。 で、なんでコイツは隣に座ったわけ? 「もう少し抑えろ」 「何を?」 「顔に出てんだよ。隊士たちが不安がるじゃねーか」 「はいはい、すいませんねー。気をつけりゃーいいんだろ」 「と言っても、総悟がアレだからなぁ…」 俺と土方は、2人同時に振り向いた。いつのまにかゴリラ…局長がやってきていた。全然、まったく気づかなかった。 ゴリラもまたごくごく自然に席につく。やっぱり、俺の隣に。 「え、なんでお前までこっち座んの? こんな広い食堂でなんで男3人ひしめき合ってんの!?」 「まあまあ、細かいことは気にするな」 「気にするだろフツー!」 同じテーブルを使うにしたって、隣に座んのはおかしいだろ!? 「いいからいいから。今は総悟のことだ」 「う、うん…」 2人に説得されて、上がりかけていた腰を下ろす。ゴリラに肩を叩かれた瞬間、激しい殺気を感じて辺りを見回した。 「銀時?」 ゴリラと土方は気づいてないらしい。だけど、今のは確かに……。 「オイ銀時、どーしたってんだよ」 土方に言われ、渋々意識を戻す。でも今のは勘違いなんかじゃない。アイツの……沖田くんの殺気だった。 なんで……と思ったけど、理由はすぐ隣にあった。 「だいたい、銀時は総悟と何があったんだ?」 「何っていうか…」 大好きな近藤が大嫌いな俺と話している。きっとそれが気に入らないんだろう。 殺したいほど嫌われてるってのも、苦しいもんだなぁ……。 幼い部下を思って、俺は嘆息した。 +++++ 書類の山を押し付けようと土方コノヤローの部屋に行くと、何故か土方さんじゃなく副長と目があった。その途端に副長の体はあからさまに強張って、目を逸らされてしまう。 なんで副長が土方さんの部屋にいるのかとか、目逸らすこたァねェんじゃねェかとか、そんなことよりもまず、さも当然のように副長の隣に座ってタバコをふかす土方さんに怒りが燃えた。 わざとらしく書類を土方さんの目の前に置いてやる。 「んだよ総悟、この書類の山」 「押し付けにきやした。俺ァこれから市中見回りなんで」 自分で自分の声が冷え切っていることがわかる。自分でこうなる状況を作っておきながらその状況に嫉妬するなんて、なんて滑稽なんだろう。 「テメーの仕事くらいテメーでやれ」 返す土方さんの声も不機嫌丸出しで、俺は心の中で首を傾げた。この人の機嫌が悪い理由が見当たらない。 睨み合う俺たちの間に、見かねたらしい副長が口を挟む。 「オイオイお二人さん、なんで険悪なムードなわけ? 多串くんさっきまで機嫌悪くなかっただろ。沖田くんもほら、書類なら俺がやっとくから――」 「銀時!」 鋭い怒声がせっかくの心遣いを切り裂く。怯えることはしなかったものの、副長は目を見開いて俯く土方さんを見やった。 一方俺は、土方さんを見下ろしながら小さく舌打ちをした。 なんてことしてくれやがったんでィ土方さん。ついさっきまで俺を見ていた血色の瞳は、もはや俺なんか映しちゃいない。また副長は、俺を見ない。 沸々とやりきれない感情が湧いてきて、俺は何も言わずに土方さんの部屋を出た。 「あ、沖田くんっ」 副長の声がする。だけど振り返らない。足も止めない。 だって俺ァきっと、何をするかわからないから。嫉妬と呼ぶにはあまりに凶暴な感情が、アンタを傷つけてしまいそうだから。 +++++ 沖田くんのいなくなった副長室。 俺と同じ副長という立場であるはずの彼は、今にも泣きそうな子供のような顔をしている。色男のくせに幼い表情が可愛く思えて、俺は苦笑を漏らして土方の頭を撫でた。 「……何すんだよ」 「いやあ、可愛いなぁって思ってね?」 「誰が!」 土方は激昂してみせるものの、そんな表情じゃ説得力は全然ない。 「俺のためにそんな顔しちゃダメでしょ?」 俺とお前は正反対で仲が悪くて、だけどどこかわかりあってて、それだけで十分だろう? 仲間という意識が漠然とある。それでいいじゃないか。 「誰がテメーのために動くかよ」 土方は俺の手を払いのけ、沖田くんが置いていった書類に手をつけた。なんだかんだで、土方は沖田くんに甘い。 結局仲いいんだよなぁ……。 「けど、お前……」 「いいんだよ。俺は、ここにいられるだけで十分だから」 どこの馬の骨とも知れない俺を拾ってくれた。 真選組副長という座を与えてくれた。 仲間だと言ってくれた。 それ以外に、何を望もう? 「……クソッ」 土方が怒りを込めて机を叩く。俺は土方の行動の意味がわからなくてただ首を傾げた。目で理由を尋ねてみるけど、土方は何も言わない。言うつもりもないだろう。 「仕方ないなぁ…」 沖田くんが持ってきた書類を土方から奪い取る。 結構量あるなぁ。沖田くんサボりすぎ。 「今日は土方くんの可愛さに免じて、銀さんがこれ片付けてやろうじゃねーか」 「だから可愛いっつってんじゃねぇよ!!」 「可愛い可愛い。ねーとーしろーくん」 「棒読みしてんじゃねェェェェェ!!」 クスクスと笑って、振り回される刀を避ける。 ケンカに乗ってくれる土方は本当に優しい。 家族みたいで嬉しいなんて、お前には絶対に言ってやらないけどね。 +++++ 土方さんの部屋を逃げるように出てきたあと、市中見回りになんか行けなくて縁側で壁に背を預けて座り込んだ。 苦しい。 胸が締め付けられるように痛くて、呼吸の仕方も忘れたみたいに息を荒げて。 わかってるんだ。これが身勝手な嫉妬だってことくらい、イヤってほど理解している。 好きで好きでどうしようもなくて、相手を慈しむはずの恋情であの人を傷つけてしまいそうだったから、俺は自分から距離を置いた。もう少し落ち着いてあの人と向き合えるようにと、自分から離れていったはずなのに。 苦しいんだ。 あの人が俺じゃない誰かと笑いあうたびに。 俺じゃない誰かを気遣うたびに。 俺は嫉妬で狂いそうになる。 すぐにでも間に割り込んで、相手を殺してしまいたい。あの人に近づくすべてを消してしまいたい。そんな危険な感情が俺を支配する。 だからますます傍にいられなくなって、距離を開けて、でもやっぱり嫉妬して……。 ひどい矛盾だ。 「…ご、総悟」 俺を呼ぶ声に気づいて顔を上げると、困ったような顔をした近藤さんが俺を見下ろしていた。 「……何ですかィ?」 「い、いや、座り込んでたからな。具合でも悪いのか?」 「いいや」 緩く首を横に振る。 体調が悪いわけじゃない。もっと別の、心の問題だ。 「そうか」 近藤さんは頷いて俺と同じように壁に背を預けて座った。 「お前たちの問題だ。口を挟むつもりはないが……」 近藤さん…? 「大切なら傷つけるなよ」 俺は息を呑むしかなかった。 近藤さんは俺とあの人の仲がギクシャクしていることは知っていても、はっきりした理由は知らないはずなのに。 だから俺ァこの人についていくんだ。改めて思った。 普段バカだお人好しだと言われているけれど、時にこの人は鋭い。気づかれないように隠していることにすんなり気づいて、心を落ち着かせる言葉をくれる。 俺が大将だと仰ぐ、ただ一人の人。 「だけど、だけどねィ、近藤さん」 急に口をついて出る弱音。 泣きそうになって、顔を膝に埋めた。 「俺ァいつか、あの人を傷つけちまいそうで怖いんでさァ。いつか自分を抑えきれなくなって、あの人を……」 「お前なぁ…」 近藤さんの声が呆れている。 何でィ。くだんねェガキの悩みだとでも思ってんのかィ。俺は本気で、 「そうやって怯える前に、伝える努力をしたか?」 「……え?」 「俺を見てみろ。俺はちゃーんとお妙さんに想いを伝えてるぞ。毎日毎日、蹴られても殴られても……」 あ、近藤さんが落ち込んでく。 つか、この人でも落ち込むことなんかあったんだねィ。 「とにかく!」 わざとらしい咳払いをする近藤さん。今更格好なんかつかねェんですが。 「一度銀時とちゃんと話してみろ。話してみると案外怯える必要もないかもしれないぞ?」 「話……」 あの人は、銀時さんは、今更こんな俺の話を聞いてくれるだろうか。醜く汚い感情を受け止めてくれるだろうか。 「…………」 深く深く、息を吐いた。それは、長く溜め込んでいたものを吐き出すための行為で、優柔不断な俺の決意でもあった。 俺の顔つきが変わったのを見てとったのか、近藤さんが肩を叩いてくれる。見上げると、近藤さんの笑顔がそこにあって。 意味もなく、安心した。 +++++ 沖田くんが置いていった書類を自室に持って帰って、苦手な執務をしているはずの俺。 なのにどうしてだろう。視界には天井があって、傍らというか俺の上には何か大きなものが乗っかっている。 銀さんは今、押し倒されてるようです。 誰にって、多串くんに。 自室には戻った。多串くんというオマケ付きで。 なんでついてくるんだよって何度訊いたって、土方は答えようともしなくて。結局押し切られて、仕方がないから部屋に入れてやった。 そうしたらコレだ。 押し倒し? 銀さん押し倒して何が楽しいの、土方くーん。 「多串く……」 「副長――」 俺が口を開いたまさにその瞬間に、沖田くんが副長室の戸を開けた。 固まる空気、ドス黒い殺気、流れる冷や汗。 そして。 「悪りぃ、銀時」 滅多にない土方の謝罪。 う、ちょ、何それ。お前に謝られるとすごくヤな予感するんですけど。 「からかいすぎた…かも」 からかいすぎたって何ィィィィ!? パニックに陥った俺の視界の端で、沖田くんが刀を抜いたのが見えた。ヤバくないか、この展開。 土方も沖田くんが刀を抜いたのに気づいたらしい。自分一人そそくさと出ていってしまう。しかも、殺気立ってキレまくってる沖田くんを残して。 ちょっと、土方、沖田くんがキレてんのお前のせいなんだろ? 引き取ってよ! ……なんて、口に出せる雰囲気でもなくて、俺は土方が出ていくのを見ているしかなかった。 俺と沖田くんは重い空気の中に取り残された。 +++++ 「何、してたんですかィ?」 「何って言われても……」 押し倒されたままの副長を、そのまま手首を抑えつけて身動きを取れなくした。話をしようと決意したばかりなのに、ドス黒い何かが腹の底から湧き上がってくる。 土方のヤローに押し倒されて、抵抗の欠片も見せなかった副長。吃驚した表情ではあったけど、慣れないってだけだろう。 「俺には言えねェってことか。そりゃそうだよな……土方さんとの逢瀬だ」 なんだ、俺ァただバカを見てたってだけかィ。土方のヤローとデキてんのに、横恋慕して。胸を締め付けるような想いも、狂いそうなほどの嫉妬も、何もかも無意味だったんだ。 「どうでしたかィ? 男に掘られるってのは」 「はぁ!?」 俺は今、嫌な笑みを浮かべているだろう。怯えたように俺を見上げる副長を見下ろしながら、自分でも思った。 だけどやめない。 やめられない。 副長の首からスカーフを抜き取り、両腕を縛り上げる。肌蹴た隊服の隙間から覗く白い肌にゴクリと喉を鳴らした。 「沖田くん、ちょ…待って」 「俺にもヤらせてくだせェよ」 「…ひっ…あ……っ」 首筋から胸元にかけて唇を落としていく。赤い痕を残しながら気づいたが、副長の体には土方さんの所有痕は残されていなかった。 独占欲強そうなのに……禁止でもされたんですかねィ。 「おき、やめ…っ」 俺には抵抗を示す副長に、切なさが募った。 副ちょ……銀時、さん……。 「好き」 言葉が、零れた。 「好きなんでさァ、副長」 言うつもりなんかなかったのに。 「アンタが誰を想ってても構いやせん。だけど、今だけでいいから、俺に抱かれてくだせェ」 思った以上に弱々しい声が出た。反応が怖くて、顔を上げられない。 銀時さんが何も言わないのをいいことに、行為を進めようと手を動かした。 「ヤダって言ってんだろ総悟!」 これまでより強い口調よりも、名前を呼ばれたことに驚いて手を止めた。恐る恐る銀時さんの顔を見ると、銀時さんは今にも泣きそうな顔をしていた。 「なんで……? なんでこんな……ムリヤリ……ッ」 アンタが土方さんを想ってるって知っても、諦めきれねェからでさァ。 「土方のことだって……俺が土方のこと好きだって、誰が言ったよ? 俺が好きなのは、土方じゃなくて沖田くんなんだよっ!」 「……!」 銀時さんの言葉に、俺は目を見開く。 アンタ一体何言って…。 「傍にいられるだけでよかったのに、話できるだけでよかったのに……なのにお前最近俺のこと避けてるし、副長って呼ぶし、殺気放ってくるし……さっきのだって、すっごく嬉しかったのに副長だし……」 ウソ、だろィ? アンタが俺を好きだなんて。アンタも俺と同じ想いを抱いていたなんて。 「ウソ、だ」 「ウソじゃないっ」 血色の瞳から、涙が一筋零れた。 「好きだよっ! 俺だって沖田くんが好きなんだよ……! 信じてよ……」 腕を縛られ、俺に組み敷かれたまま、銀時さんは静かに泣いた。堪らなくなってその滴を舐めとると、しょっぱい味が口の中に広がった。 「ふくちょ…」 「……」 「でっ」 無言で腹を蹴られた。結構痛い。 「銀時って呼びなさい」 「え…」 「銀時って呼んだら今までの全部許してやる。だから、名前で呼んでよ……」 命令って言うより、懇願に近いそれ。 けど本当は、俺の方が名前を呼ばせてほしかった。銀時さんを避けて、傷つけてた俺を許してほしかった。 「銀時、さん」 「ダメ。銀時。さんはいらない」 「ぎんとき」 胸の奥が熱い。名前を呼ぶのも苦しかったはずなのに、何故か苦しさは訪れないで、あたたかいものが胸を満たした。 「もっと呼んで、総悟」 「ぎんとき、ぎんとき」 知らぬ間に、銀時さんを抱きしめて何度も何度も名前を呼んだ。頬を流れる何かにさえ、気づかないまま。 「好きでさァ」 「うん」 「好き」 「俺も好き」 「愛してまさァ」 初めて交わしたキスは、しょっぱい涙の味がした。 +end+ なんか意味わかんないものに仕上がってしまいました(((゜д゜;))) ですが、1000hit感謝です。 ウフフ、1000hit…… ニヤニヤしてます。 こんな駄文サイトに来てくださった皆様に感謝です! ありがとうございます!! 亀更新ですが、これからも当サイトをよろしくお願いします。 ちなみに、この小説はフリーとなっております。 もらってくださるという奇抜な方がいらっしゃったらどうぞご自由に。 報告は任意ですが、報告してくださると嬉しいです。 2008.5.24. |