「坂田氏、坂田氏! 見てくれ、この限定フィギュア。さすがトモエちゃんでござる!」
「あーはいはい。わかったから黙れ」
 これじゃゆっくりと酒も飲めない。
 深くため息をついて、銀時は酒を呷った。
 視界の端に移るトッシーの存在が、かなりウザい。おかしくなるのは勝手だが、懐かないでほしい。
「坂田氏〜。やっぱりトモエちゃんはいいでござるよ」
 顔を真っ赤にしたトッシーが、銀時になだれかかる。たいして飲んだはずはないのだが、完璧に酔っ払ってしまったらしい。喉を鳴らして満足そうに胸に懐いている。
 そんな表情をされたら、引き剥がせなくなる。彼にその気はなくても、銀時の心が反応するのだ。
 土方がトッシーになってしまう前、銀時と土方はセフレのような関係だった。
 たまたま一緒になった居酒屋で、酔った勢いで始まったそれ。心なんてないはずなのに、銀時は次第に土方に惹かれていった。好きだと、自覚してしまったのだ。
 それからはこの想いを隠すのに必死で、土方がトッシーになってもそれは変わらなかった。
 だから、トッシーに変に懐かれるのは非常に困った。事あるごとに、トッシーは銀時に触れようとするから。隠している想いがバレそうで怖かった。
 銀時がそんな危惧を抱いているとも知らず、トッシーは銀時の首筋に顔を埋めている。首にかかる吐息が熱い。
「オイトッシー、いい加減どいてくんねえ? 重たいんだけど……」
 チリ、と首筋に鈍い痛みが走る。
「ちょ、おま…っ」
 生暖かいモノが首筋を這う。それは言わずもがな、トッシーの舌。何をされているのか理解が追いつかず、銀時はトッシーを突き飛ばした。
「……っつう!」
 ひ弱なトッシーは、壁に叩きつけられ咳き込んだ。銀時は胸の辺りを掴んで荒くなる呼吸を整える。
 ここが個室で助かった。中身はともかく、土方がいる。変な噂が立ってしまう。
 反応がないトッシーが心配になりそちらを見やると、トッシーは据わった目で銀時を見つめていた。
「トモエちゃん…」
 口から漏れた言葉は、二次元にいる彼の想い人の名前。
 銀時の表情が泣きそうに歪んだ。
 トッシーにしろ土方にしろ、『土方十四郎』は銀時を見ない。
 どうして自分は、この男が好きなのだろう。想いが通じるわけなどないのに。
 胸の奥が苦しくなって、銀時はこの場を去るため立ち上がろうとした。が、着物の袖を引かれて後ろから倒れ込む。
 痛みに眉を寄せて上を見上げると、銀時を組み敷くトッシーの姿が目に入る。突然のことに身が固くなる。
「トッシー、何やってんの!?」
 怪訝そうに言う銀時に、トッシーが返した言葉は何故か聞き取りにくくて。
「トモ…ちゃん……り、綺麗…」
「……ッ!」
 心が痛んだ。
 銀時が呆然としている間に、トッシーは恍惚とした表情で銀時の赤い唇に口づけた。ヘタレな彼の口づけは辿々しくて、それが土方の巧いキスを思い出させて苦しくなる。
「…ん、ぅ…ゃだ、やめてぇ! ひじ、かたぁ……!」
 じたばた暴れて抵抗すると、トッシーは悲しそうに表情を曇らせた。
「……残り香は残ってるのに」
「……え?」
「僕も土方十四郎でござるよ?」
 トッシーらしくない声音で言うと、トッシーは額に巻いた布で銀時の手首を緩く縛った。吃驚して銀時は目を見開く。
 慣れない手つきで服を脱がされ、真っ白な肌がトッシーの眼下に曝される。ゴクリと、トッシーの喉が生々しく音を立てた。
 白い肌には、土方がつけた赤い華が散っていた。その痕を辿るように舌が移動する。執拗にそこばかりが舐められる。
「…ゃ、トッシー、ダメ…消しちゃ、ダメぇ!」
 銀時の両目から涙が溢れる。
 心ない行為の名残が支配欲の結果だとしても、その痕を消されるのは嫌だった。ましてやトッシーは、銀時を二次元の少女だと思い込んでいるのだから。
「ゃ、ああ…やだ…やめろってば!」
 散々土方の名残を消して満足したのか、今度は胸の飾りに興味を示される。片方は舌で愛撫され、もう片方は手で弄られる。甘噛みされたり押し潰されたりして、甘い痺れが腰に走った。
「いやあ! イヤ、ひじか…ぁ、やぁんっ!」
 銀時は泣き叫びイヤイヤと首を振る。
 代わりとして抱かれるなんてつらすぎる。
 激しく拒絶する銀時に、トッシーも愛撫の手を止めた。裏切られたような顔をしたトッシーは、銀時の上で腕を枕に泣き出した。
(なんでコイツが泣いてんの? つか、今泣いてんの俺だよね)
 呆れすぎて涙も出なくなってしまった。縛られた腕で彼の背を撫でてやると、トッシーは震える声で何かを呟き始める。
「なんで、僕じゃダメなのでござるか…?」
「あ?」
「僕だって、坂田氏が欲しいのに」
「お前、何言って…」
「僕も土方なのに、」
「……」
 続きを待ってみるが、泣き疲れて眠ってしまったらしい。トッシーの声が寝息に変わった。すっかり毒気を抜かれた銀時には、もう怒る気力もない。
「意味わかんないんですけど」
 トッシーの想いも、トッシーの言いたかったことも。
 銀時が辺りを見渡すと、飲みかけの酒が目に入った。トッシーに渡したグラスは、手つかずのまま置いてあった。
「……えーっと」
 とりあえず、腹の上で眠るトッシーと同じように目を閉じてみることにした。
 すべては、目が覚めてから考えよう。






+end+






+++++



自分で書いておいて何なんですが、意味がわかりません。
動乱編を読んで、つい突発的にやってしまいました。
トッシーが銀さんに懐いてたらいいなぁ……?






2008.3.2.