何の因果か、銀時は朝目覚めると女になっていた。
「いや、まあ、何の因果かっていうか、確実に馬鹿本のせいなんですけどね」
 以前にも似たようなことがあったため、銀時は冷静だ。
 事の発端は、昨日旧友の坂本から送られてきた菓子折りにあった。
 いつものごとく腹の立つ無駄に丁寧な手紙を読み流し、破り捨て、送られてきた箱を開けた。中にあったのは宇宙で大人気の甘味で、ここ最近甘味を食べる金すらなかった銀時は、坂本から送られてきたものを疑うことなく食べてしまったのだった。
 幸い子供たちはそのときいなかったので甘味を食べなかったが、すぐに効果が出なかったことで油断していた。坂本から送られてくるもので危なくないものなどないに決まっているのに。
「つーかこれどうするかね。神楽にばれたら面倒だしなぁ……」
 この手のことは全力で面白がる神楽にばれてしまったら、散々遊ばれるに違いない。神楽も女の子だし、女の子らしく買い物に行きたいと言われる可能性もなくはない。見た目が女になっているだけで心は男の銀時がそれに耐えられるはずがない。
 都合のいいことに、今朝は誰よりも早く起きている。神楽はもちろん起きていないし、新八も来ていない。逃げるにはちょうどいい。
「だけどなぁ……どこに逃げりゃいいんだか」
 銀時の体は女性らしく縮んでいて、元の体よりもはるかに小さい。おそらくお妙と同じくらいだろう。当然のことながら普段着ている服はぶかぶかで、寝間着さえ大きすぎて何度も肩からずり落ちているほどだ。
 男として一番気になる胸は、大きくもなく小さくもなく、という感じだった。好奇心を抑えて恐る恐る触れてみて、柔らかい感触に小さく感動する。ただし、自分の胸というのが非常に悲しかったが。
「俺の胸じゃなくて熟女の胸だったらいいのに……」
 思わず零した胸の内が嫌に部屋に響いて、むなしい気分になった。
 とりあえず立ち上がり、ぶかぶかの寝間着から同じくぶかぶかの普段の着物に着替えて、腰元をベルトで強く縛って無理やり今のサイズに合うようにした。長い裾を折り曲げて身長に合わせる。手元はどうにもならなかったため、長いままにしておいた。歩ければなんとかなるだろう。
「よし、逃げるか」
 神楽と定春を起こさないように気配を殺して、銀時は万事屋を出た。






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 逃げ出したはいいものの、銀時には行く当てが全くなかった。
 まず第一にお登勢は頼れない。桂には頼りたくないし、かまっ娘倶楽部に行くとからかいの的になりそうだ。子供たちに秘密にすることを決めた手前妙のところには行けないし、その関係で九兵衛のところにも行けない。一番頼れそうなのは吉原の月詠たちだろう。無事にたどり着ければ、の話だが。吉原は万事屋から近いとはいえない距離にあるのだ。
 長谷川や全蔵に会ったときにはきっと目も当てられない。できるなら会いたくないものだとため息をついて、銀時はこっそりと早朝のかぶき町を歩きだした。
 早朝ということもあって、常に人の波が途切れないかぶき町は静かだった。歩く人もまばら、スナックやホストクラブを閉めたオーナーたちがちらほらと見えるくらいだ。
 かぶき町では顔が広い銀時だが、顔見知りに会うことはなかった。そろそろ吉原に着くころになっても誰も会わなかったことに安心し、ほっと息をつく。
 そこで油断したのが間違いだった。
「あれ? 銀時さん?」
 聞きなれた声が耳に届いた。ギギギ、と機械が立てるような音を立てながら、銀時は後ろを振り向く。
 そこには、思った通り沖田が立っていた。銀時を銀時とはっきりとは認識していないせいか、怪訝そうに眉をしかめている。疲れた表情をしているのが気になったが、今は沖田の心配をしている場合ではなかった。
「銀時さんですよねィ。でも違和感が……」
「な、何のことかな……? お、私、は銀時って人じゃないよ?」
 銀時の声は普段の声よりもだいぶ女性らしい声になっている。気づかないでほしい、と一縷の望みをかけて他人のふりをしてみる。
「やっぱり銀時さんだ」
 銀時の藁にも縋る思いも無視して、沖田は嬉しそうに微笑んで見せた。その笑顔を愛おしいと思うのは惚れた弱みだろう。
 沖田はあっさりと近づいてきて、沖田よりも低くなってしまった体をまじまじと見つめる。こうなってしまうと、銀時は諦めるよりほかに仕方がなかった。
「なんで背が縮んでるんですかィ?」
「あー、いや、背が縮んでるっていうか……とりあえず沖田くん、屯所連れてってくんない?」
 単に背が縮んでいるというわけではなくて、実は女性に体が変わっているのだが、人通りが少ないとはいえ往来でそんな話ができるはずもなく。銀時は妥協案として屯所への移動を希望した。
「ふぅん、まあいいですけどねィ」
 身長が低くなったことでいつもと立場が逆になる。くしゃりと銀時の頭を撫でた沖田は、胸元をぎゅっと握りしめる形の銀時の手を引いてパトカーへと歩き出した。いつもは銀時の方が彼の頭を撫でる方なのに、自分が撫でられると違和感があった。
 僅かに染まった頬を隠すように俯いて、銀時は沖田の後に従った。






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 屯所について、誰にもすれ違わずに沖田の部屋へと入った。いや、誰にもすれ違わずに、は間違いだ。山崎とは、パトカーの窓越しに会った。もっとも、沖田の言葉に誤魔化されて銀時が乗っていたことさえ気づいていないようだったが。
 沖田の部屋に入って一通り事情を話すと、沖田は呆れたため息をついて銀時の腕を引いた。今の銀時は女であるため、あっさりと沖田の腕の中に収まってしまう。
「なんでそんなもん食っちまうんですかィ? 怪しいってわかってたんだろィ?」
「んなこと言われたってしょうがないじゃん」
 銀時に甘味がらみで疑えというのがおかしい。中に何か入っているかもしれなくても、甘味は甘味だ。
 沖田に背後から抱えられる形で抱きしめられて、会話を続ける。銀時が男であるときは絶対にあり得ない状況を、沖田は楽しんでいるようだった。銀時としては非常に楽しくない。
「なんかむかつく」
 むす、と唇を尖らせる。男のときは似合わないその仕草も、女ならばありだと思えるのが悲しかった。
「何がですかィ?」
「沖田くんに抱きしめられてるのが。俺の方が身長高かったのに」
 拗ねた表情の銀時を宥めるように、沖田は女になってもくるくると跳ねる銀髪に指を絡める。その指が心地よくて、銀時は思わず目を細めた。慈しむような指先に僅かに体が震える。
「そりゃあ今の銀時さんは女ですから。あ、これじゃ旦那じゃなくて姉御ですかィ?」
「いやだよ! 俺は男なの!」
 大きくはないがそれなりに出た胸、細い腰、筋肉のない柔らかい体。どこをどう見ても女にしか見えない自分の体が恨めしい。いや、実際女になっているのだけれど、そこは気持ちの問題というか。
「本当はもっとくたびれた感じになるかと思ってたんだけど」
 もともと銀時は、沖田や土方のように、決して顔がいいとはいえない。天パだしマダオだしモテないし。なんといえばいいのかわからないが、いわゆる普通の女になるとは思っていなかったのだ。
 銀時のその言葉を聞いた沖田は、なんとも形容しがたい表情をした。困ったような呆れたような、なんとも言えないような表情を。
 銀時は、自分が実は男にしては綺麗な部類に入るのだとか、ちょっとした仕草がいちいちエロいのだとか、自分の魅力をちっとも理解していない、というのが沖田の言い分だ。これまで何度か告げられたが、銀時は信じられなかった。オジサン一歩手前の男を捕まえて綺麗だとかエロいとか、ありえない。だから、沖田の微妙な表情も理解できなかった。
 明らかに信じていない表情の銀時を見て、沖田は呆れたため息をつく。
「まあ、それでいいでさァ」
「あ、それもむかつく」
 ぺしぺし、と幼い仕草で沖田の腕を叩く。腕は離れることなく、むしろさらに強い力で抱きしめられた。
「……可愛すぎでさァ」
「え? 何?」
「なんでもありやせん」
 不審には思ったが、強く強く抱きしめてくる恋人の腕が嬉しくて、銀時は何も言わずに身を委ねた。包み込まれるのは気に食わないけれど、安心感があったのも確かだったから。






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女体化に滾りました。
その一言に尽きます!
あと、沖田くんに銀時を後ろからぎゅってしてほしかったので。
後ろからぎゅってするのは私のツボです!!






2011.06.03.