いくら生まれ変わりとはいえ、銀と銀時は違う人間だ。
 生きる時代が、育ってきた環境が違う。姿かたちが同じだけだ。
 それでも、些細な仕草や無意識の癖は同じで、総悟はそれを見つけるたびに胸の奥が熱くなるのを感じていた。
 理由の一つは、現代を生きる総悟が銀を思い出して喜ぶから。もう一つは、総悟の中に眠る平安時代の沖田総悟が銀を想って愛おしいと訴えるから。
 銀時に言ったら、きっと怒られるのだろう。銀と銀時は違うのだと、それでもいいと言ったのは総悟自身なのだから。
「……沖田君さぁ、そうやって人のことじっと見るのやめない?」
 銀と別れて、銀時と出会ってからというもの、総悟は毎日のように銀時に会いに行っていた。銀時は少し迷惑そうな顔をしたが、特に嫌がる素振りも見せなかったから、家に押し掛けている。
 行くたびにじっと銀時を見つめるから、銀時はいつも困ったような顔をした。
「そうは言われてもねィ」
 決して顔だけが好きというわけではないが、顔も好きなのだ。できるならずっと見ていたいほど。
 正直に言えば、銀時はうっすらと頬を染めた。
「そういうこと言っても騙されねぇからな」
「騙してるつもりもねェや」
 紛れもなく総悟の本心だ。しかし銀時はそうは思わなかったらしく、複雑そうに眉を寄せた。
「……別にいいけど」
 不満げな声で吐き捨てて、銀時はまた作業に戻った。
 今総悟と銀時がいるのは、銀時の家のキッチンだ。何でも銀時の家に知り合いの子供たちが来るとかで、銀時がクッキーを作っているのだ。以前遊びに来たときに何か菓子を作ると約束をしたらしい。
 甘党だという銀時は自分でもホールケーキを作れるほどの菓子作りの腕で、将来はケーキ屋になるつもりなのだそうだ。そんな銀時が作るクッキーなのだから、美味しくないわけがない。総悟もおこぼれをもらうつもりで銀時に張り付いていた。
 だが、あまりに銀時を見つめすぎたおかげで銀時の機嫌を損ねてしまったようだ。機嫌を損ねた、というには複雑すぎる表情のような気もするけれど。
 とりあえず気にしないことにして、総悟はまたクッキー作りに精を出す銀時の背を見つめた。
 慣れた手つきで生地をこねる銀時はやはり銀とは似ても似つかない。銀は料理が得意でないと言っていた。妖なのだから当然だろうと思ったものだ。
 飽くことなく銀時を見つめているうちに、玄関が叩かれる音がした。呼び鈴があるにもかかわらず、扉の方を叩いている。同時に銀時を呼ぶ声も聞こえ、もう一人叩く少女を窘める声も聞こえた。
「ったく、ちゃんとインターホン鳴らせっていつも言ってんのに」
 呆れたように言いながら、それでも銀時の表情は穏やかだ。それだけ気を許した相手なのだろうとわかるけれど、総悟には一度も見せたことのない表情だ。
 面白くなくて、総悟は銀時から目を逸らした。
「沖田くん、俺ちょっと出てくるから」
 そう言い残して、銀時は出ていってしまった。 キッチンに作りかけのクッキーと総悟が残される。玄関から聞こえてくる声はやはり総悟が聞いたことのないもので、心に苛立ちが募っていくのがわかった。
 戻ってきた銀時は、二人の子供を連れてきた。片方はオレンジ色の頭をした中華風の少女。もう片方は地味目の和服を着た少年だ。
 二人ともどこか現実離れしている。
 一目見てわかった。
 彼らは普通の人間ではない。妖、だ。
「……銀ちゃん、そいつ誰ネ」
 オレンジ色の少女が総悟を睨む。鋭い視線には敵愾心しか含まれていない。
 他に誰もいないと思っていたのだろう。二人は銀時の腰に抱きついて様子を窺っている。少し、ほんの少し、嫉妬心を覚えた。
「ああ、気にしなくていいよ、神楽、新八。ひどい奴じゃないし」
 銀時が二人の頭を撫でると、二人は嬉しそうに微笑んだ。またチリ、と胸の奥が焼ける音がする。
 思い切り睨みつけると、神楽という名の少女に強く睨み返された。神楽は総悟を敵認定したらしい。受けて立つ、と目は逸らさなかった。
 睨み合う二人に苦笑を零して、銀時は目元を緩ませる。
「沖田総悟っていってさ、アイツの、ずっと探してた人」
 はっとした表情をしたのは、新八という少年の方だった。じゃあ、と口を開きかけた新八を制して、銀時はひとつ頷いた。
 軽く事の顛末を告げる。彼らは事情を知っているらしい。神楽の顔がみるみるうちに不機嫌になった。
「じゃあ、銀ちゃんはそいつのこと好きアルか?」
「あー……まあ嫌いじゃないよ」
「俺と銀時は恋仲でさァ」
 銀時の返答にカチンときて、思わず言い返した。
 前世で自分と彼は恋仲だった。だから現世でもそうあることが当然だ。当然の、はずだ。
「それは、どっちの銀さんですか」
 静かに告げたのは、意外にも神楽ではなく新八の方だった。眼鏡の奥から真っ直ぐ総悟を見つめる。告げられた言葉に、総悟は返す言葉を失った。
 現代を生きる総悟は銀と銀時のどちらをも知っている。会う順番が全てを決めるわけではないが、総悟が最初に惹かれたのは銀の方だった。
「ちょ、新八……!」
「銀さんは黙っててください」
 銀時が間に入るも、真剣な新八に言われて黙り込む。神楽は変わらず総悟を睨みつけている。新八と同じ気持ちのようだ。
「もし、あなたが銀時さんじゃなくて銀さんを想ってるんだったら、もう二度と銀時さんに近付かないでください」
 殊の外強い言葉に、唾を飲み込む。必死に言葉を探すも、何も見つからなくて困った。
 銀時と銀のどちらを想っているのか。それは、総悟の中でもわからないことだったから。
「――俺は、」
「銀ちゃん!」
 言いかけた言葉は神楽によって遮られる。突然大声を出した少女は、テーブルの上を指差した。
 そこにあるのは先程まで銀時が作っていたクッキーだ。神楽はキラキラと目を輝かせて、涎を垂らしている。
「あれ、銀ちゃんの手作りアルか?」
 聞いてはいるものの、答えは欲していないらしい。そうとは疑っていない口ぶりで手を伸ばす。生地に手が届く前に、銀時によって阻まれた。
「まだ焼いてねぇんだから触んなって。今から焼くから」
「やったアル! 銀ちゃんの手作りネ!」
 先程までの緊迫した空気が一転、ほのぼのとした優しい空気に変わる。呆然とする総悟に近付いてきたのは、険しい顔を崩さない新八だった。
 銀時はここに横たわる不穏な空気に気付いていないのか、困ったように笑いながらオーブンに手をかけている。隣ではしゃぐ神楽の様子が演技のように見えた。
「僕らにとって、銀時さんは銀さん以上に大切な人なんです」
 眼鏡の奥で、暗い色が光る。それは、今まで総悟が出会ってきた妖の誰よりも恐ろしく感じた。
「銀時さんを傷つけるなら、絶対に許さない」
 背筋が震えたのは、気のせいではないのだろう。






+続……?+






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続き書こう書こうと思っていて、ちょっと不穏な空気を織り交ぜてみました。
ものすごい、そういう気分です。
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2010.11.26.