【君の隣に腰掛けて】






 高杉が突然家にやってきた日の翌日、月曜日。
 銀時は怖々と教室に入った。
 銀時にとって、バレンタインデーというのは毎年つまらない行事だった。チョコを貰えるのはいつだって顔のいい奴らばかりで、銀時は一つももらえなかったから。つまらないし、ムカついた。
 けれど、今年のバレンタインデーは少し違った。
 日曜日だった今年のバレンタインデー。その日に、ただのクラスメイトだったはずの高杉に告白された。大切な糖分を奪われて、さらにはキスまで奪われて。
 心まで、奪われた。
 かっこつけているくせに顔を赤くする高杉が、急に愛しくなったのだ。
 その告白の返事をするのが、今日だった。面と向かって言えそうにもなくて、けれど返事をしなければと気ばかり焦って、変な緊張を抱えたまま教室まで来てしまった。
 当の高杉は、相変わらず皮肉めいた笑みを浮かべて桂と話をしている。昨日のことなんて何も気にしていないように見える。その姿は、返事をしなければならないと気負う銀時をますます近寄らせなかった。






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 決心して学校に来たにもかかわらず、すでに放課後になってしまった。窓の外はもう日が落ちて真っ赤に染まっていた。
 とぼとぼと廊下を歩きながら、銀時は大きなため息をつく。
 結局、放課後まで返事をすることはできなかった。ただ単に彼に話しかければいいだけの話なのだけれど、彼の周りにはいつも女子が近くにいることもあって、なかなか近寄れない。銀時はそこまで高杉と話す仲ではなかったし、高杉も心なしか銀時を避けていたような気がした。
 そんなわけで、声をかけることさえできなかったのだ。
 放課後話そうと思ったのだが、運悪く担任につかまり宿題を職員室まで持っていく羽目になったのだった。ぐちぐちと文句をいいつつ教室に帰ると、教室の中は誰もいなかった。
 いや、一人だけ、机に突っ伏して寝ている人物がいた。
 銀時がずっと気にしていた高杉その人だ。
 できる限り気配を殺して、銀時は高杉の隣の机に腰を下ろす。高杉は本当に寝ているようで、薄く開いた唇からは穏やかな寝息が零れていた。
 昨日、触れたはずの唇に目がいく。慌てて逸らすのに、どうしてもそっちを見てしまう。喉が鳴ったのにさらに慌て、振り払うように頭を振った。
「……高、杉」
 起きていないことを何度も確認して、そろりと手を伸ばした。怖々伸ばされた手が、高杉の髪を梳く。銀時は違うストレートの髪は絡まることなく指をすり抜けた。
 好きだな、と改めて思った。
「昨日の返事、なんだけど」
 小声でぼそぼそと言う。どうせ寝ているから聞こえているはずもないのだが、声に出すには恥ずかしかった。
「俺も好き……かもしれない」
 あくまでかもしれないだから!
 好きとは言ってないから!
 そう心の中で言い訳をして。もう一度だけ、高杉の頭を撫でた。
「……もう帰るか」
 呟いて立ち上がった途端、腕を掴まれて息を飲んだ。
「……っ! 高杉、」
「可愛いことすんじゃねーか」
 起きていた。
 そのことに息ができなくなるほど驚いた。寿命が縮んだ。絶対に縮んだ。
 恨めしげに高杉を睨む。高杉はにやにやと笑い、銀時の腕を引いて体を近づけてきた。極度の緊張と羞恥でいっぱいだった銀時には、高杉の頬が微かに赤いことに気付く余裕はない。
「なぁ、返事聞かせろよ」
「さっき言っただろ」
 そう返すが、高杉は腕を離してくれない。
「聞こえねぇよ。俺も、何だぁ?」
「……っ聞こえたんだろ!」
 にやにやと笑う高杉は、絶対に聞こえていたに違いない。
 ニヤリという笑みを浮かべたまま、銀時に身を寄せ顎を掬う。唇が触れそうなほど顔を近づけ、低く囁いた。
「なぁ、銀時」
 びくり、と体が震えて。顔に熱が集まったのがわかった。きっと顔が真っ赤になっているだろう。
 なぁ、ともう一度囁かれて、銀時はぎゅっと目を瞑った。
「俺も好き……かもしれない」
 近づいた唇が甘いため息を零した。日曜日の感触を思い出し、背筋が震える。目を開けると、未だ至近距離にある整った顔が、嬉しそうに銀時を見つめていた。
「クククッ。今はそれで十分だ。ぜってぇ好きだって言わせてやる」
 何かを言い返す前に唇を塞がれた。啄ばむように触れる唇が銀時の呼吸を奪う。
 息を漏らせば、楽しそうに笑われた。文句を言いたいのに、甘い口付けに抵抗する気もうせてしまう。
 最後に名残惜しげに唇を舐めて、高杉はようやく唇を離した。
「なぁ、銀時ィ」
 耳元で囁かれる名前に背筋が粟立つ。体が逃げを打つが、小柄な割に力の強い高杉にしっかりと腰を抱かれて動けない。
「もう逃がさねぇぜぇ」
 熱い熱い声。
 耳に直接吹きこまれて、銀時は首まで赤くした。
 恥ずかしくてたまらない。けれど、それでもいいかな、と思ってしまったのは、惚れた弱みというものなのかもしれない。






+end+






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もうバレンタインとか遠い昔の話である←
続編ができそうなものを書いていこうという自分計画の一環です。
それにしてもこの高杉恥ずかしすぎて死ねますね(笑)




お題は恋したくなるお題配布様からお借りしました。






2010.09.27.