カラオケに行きたい、と。
 誰に向けたわけでもなく呟いてしまったことが、敗因なのではないかと思う。
 何に負けたのかと言われると困るけれど。






【口は災いの元】






 カラオケに行きたい、と、することもなかった銀時は何気なく呟いた。昨日買った新曲を聞いていて、ふと、そういえば最近カラオケに行っていないということを思い出したのだ。
 思った途端に口に出すのが銀時の悪い癖で。このときも、当然腐れ縁の二人が反応した。
「カラオケか……そういえば最近行ってないな」
「そうだなぁ、じゃあ行くか」
「そうだな」
 そんな会話のあと、銀時が呆然としているうちにあれよあれよと話が進み、何故かカラオケ店の店内にいる。
 ちなみに、メンバーには銀時、桂、高杉のほかに、土方と沖田がいた。その人選も銀時にはわからない。
「あ、桂、マイク取ってくれ」
「ああ。ん、この曲を入れたのはお前か」
「まあな」
 この間知り合ったばかりのはずの桂と土方はいつの間にか仲がいいし。
「銀時さん、何歌いますかィ?」
「銀時は歌えねぇよなぁ。音痴だからなぁ」
「え、銀時さん歌えないんですかィ。せっかく俺と一緒に歌ってもらおうと思ったってのに」
 沖田と高杉は楽しそうに話をしているし。
 というか、沖田くんと高杉はいつそんなに仲良くなったんですか。俺知らないんですけど。
 と銀時は心の中で告げてみる。
 口には出していないから、二人がその疑問に答えることはない。炭酸がなみなみと注がれたコップを片手に、一口飲んで心を落ち着かせた。
 今は土方が歌っている。初めて知ったが、土方は歌がうまい。程よい低温が耳に心地よくて、思わず聞き入ってしまった。
 それを沖田が嫉妬の混じった視線で見ていたことには気づかなかったが。
 予約を見ると次は桂のようだ。銀時は思わず苦笑を漏らす。
 桂が好きなのは男から女にあてた甘ったるいバラードだ。こっちが引くくらいに真面目な声で歌う。彼女もいないくせに、だ。しかし、桂は一度マイクを持つとしばらく離さないので、安心して曲を探すことができる。
 ぼんやりと本をめくっていると、聞き慣れない声が耳に入ってきた。何気なく視線を上げたその先では、マイクを握った沖田が歌っているところだった。
「あ、え……?」
 桂の選曲だと思った甘ったるいバラードは、沖田が入れたものだったらしい。よくよく見れば隣に座っていたはずの沖田の姿がない。いつの間に移動したのだろう。
 目を丸くする銀時の肩を、隣に座った高杉が軽く叩いた。
「ほら、あれ。お前に向けて歌ってんだぜぇ?」
 ぼん、とマンガのような音が聞こえたのは銀時だけだった。ここが暗い部屋でよかった、と心底銀時は思う。きっと耳まで赤くなっているだろうから。
 楽しそうに笑う高杉を力いっぱい殴り倒して、本をめくる動作に戻る。二人のやり取りを知らない桂と土方が不思議そうな顔をしていた。二人の視線も、からかい混じりの視線も無視して、一心不乱にページをめくる。
 けれど、言われてから気付いてしまった視線のおかげで集中できない。
 じっと、ひたすらに見つめるその視線。
 甘くて感情の乗った声も、銀時に向けられている気がして。顔に集まる熱を振り払うために頭を振った。
「次は俺だな」
 ようやく沖田の歌が終わり、次は自分の番だと高杉が立ち上がった。実はノリノリな高杉は沖田からマイクを奪いテレビ画面の前に出る。入れ代わるように沖田が銀時の隣に座った。
「銀時さん、どうでしたかィ?」
「え、ああ、沖田くんって歌うまいんだねー。知らなかった」
 さっきの高杉の言葉が忘れられず、妙に意識してしまう。なんとなく顔を見れなくて、手元の本を見ているふりをした。
 何を歌おうか。高杉の言う通り、銀時はあまり歌がうまくない。それなりに聞ける曲にしなければ。
 そうやって誤魔化したのも束の間、沖田が身を寄せてきて無意味になってしまった。
「そりゃあ、アンタに向けて歌ったんだから当然でさァ」
「な、ちょ、耳元で喋んな」
「普通に喋ったって聞こえねェでしょうや」
 耳元に口を寄せて、睦言のような甘さで沖田は囁く。何でもない言葉のはずなのに、沖田が喋るとどうしてこう腰に響くのか。
 助けを求めて視線を彷徨わせると、にやにやしながら歌っている高杉と目が合った。睨みつけるが助けてはくれないようだ。
 桂も土方も、銀時と沖田は普通に会話しているように見えるようで、何のリアクションもしてくれない。桂にいたっては仲が良くていい、なんて頷いていたりする。
 あとで絶対殴る。
「ねェ、銀時さん。これ歌ってくだせェや」
 また沖田が囁く。体中が熱いのに、銀時の体はさらに熱くなろうとする。
「アンタの声でこの歌聴きたい」
 また囁かれて、カラオケに行きたい、と呟いた数時間前の自分を恨む羽目になった。これをずっと聞き続けるなんて、今の銀時には絶対に無理なのだから。






+end+






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沖田くんの中の人の歌は普通にうまいです。
聞いたのは主に単車乗りの歌だったりしますが←
笑顔動画で時々聞きます。
本気声で歌われたら落ちるよ、銀さんが!(ぇ






2010.09.16.