銀時は、自分よりはるかに高くなってしまった窓を見上げる。以前の記憶があるから、飛び移るのは苦ではなさそうだ。
 しばらくは外に出なければならないだろう。だがしかし、どうしてこうなってしまったのか、まったくもってわからない。
 何の因果か、銀時はまた猫になってしまっていた。
 お世辞にも可愛いとは言い難い不細工な顔、手入れのなっていないボサボサの毛、動きづらい四足。以前と同じ、猫の姿だ。
 理由はまったくもってわからない。朝起きたら猫になっていた。
 神楽も新八も、銀時が猫になったことは知らないので、二人に見つからないようにしなければならない。特に神楽はあれでいて可愛い物好きなところがあるから、見つかれば悲惨なことになるだろう。手加減もなく力いっぱい抱きしめられるに違いない。それはごめん被りたい。
 そんなわけで、銀時は窓から外に出ることにした。軽やかに窓の桟に飛び移り、屋根に下りる。四足に慣れてしまった体が恨めしかった。






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 低い目線であちこちを見回しながら、銀時はかぶき町を歩く。ボスのいない野良猫社会というものは結構うまくやっているようで、猫たちは上手く人に媚びて餌をもらっていた。
 銀時を見かけると、彼らは一様に挨拶をした。何でも銀時はホウイチと同じく英雄的な扱いになっているらしく、見かければ挨拶をするのが決まりになっているのだそうだ。
『めんどくせぇことになってんなぁ』
 銀時としては、人間に戻ったのだから関係はないと思っていたのだが。今の猫の姿では何の説得力もない。
 またしばらく歩いていると、腹がすいてきた。朝から何も食べていないのだ。空腹になるのも当然だ。
『また媚びんのもなあ……』
 疲れたように呟いて、鴨を探そうとしたそのとき、見慣れた男の姿が目に入った。彼を見た途端、銀時はげ、と猫らしからぬ声を出してしまう。
『沖田くん……』
 そこにいたのは、猫相手に存分にSっ気を見せてくれた男だった。何故ソーセージを持っていたのかとか、猫相手に大人げないとか、彼に言いたいことはたくさんあったけれど、猫の姿である今は関わりたくなかった。
 銀時も大概大人げなかったが、あの時は必死だったのだ。
 そんな言い訳を誰にともなくしながら、銀時はそろそろと沖田の横を通り抜けようとした。
 のだが。
「なぁ!?(何!?)」
 不意に浮遊感を覚え、気がつけば抱きかかえられていた。誰かと思い腕の先を辿ると、銀時を抱えていたのは、銀時が避けようとしていた沖田その人だった。
 沖田は前足の下を掴む形で銀時を抱きあげ、近くのベンチに座った。銀時を膝の上に乗せ、その端正な顔を近づける。知らず、銀時は顔を離そうとした。
 しかし、猫の銀時が人間の沖田に敵うはずはなく、怯えているように見せることにしかならなかった。
『ちょ、離せ! 離せっての!』
 何と叫ぼうと、沖田にはニャーニャーとしか聞こえない。それがわかっていても、騒ぐのをやめられなかった。
 ついでに暴れてみる。暴れたはずみに、爪が沖田の頬を掠ってしまった。血を見た途端、ぎしりと銀時の体が固まる。
『あ、その、沖田くん? ……ごめん』
 相手はサディスティック星の王子だ。何をされるかわからないから、大人しくしているしかない。
 銀時が恐る恐る表情を窺うと、沖田は嬉しそうに微笑んで見せた。
「すいやせんねェ。びっくりしたんだろィ?」
 演技かもしれない。
 そう思うのに、心が揺らぐ。
『待て俺。この前それで騙されただろーが。沖田くんSだから。俺と同じドSだから!!』
 自分に必死で言い聞かせる。
 そんな銀時を見て何を思ったのか、沖田は銀時を胸に抱き寄せ、ボサボサの頭に頬を寄せた。触れる手つきは優しくて、思わずドキリとする。いつの間にか抵抗もやめてしまった。
 銀時が大人しくなったのを知り、沖田は銀時を膝に座らせて懐からソーセージを取り出した。パックを剥いて、銀時の口元に持っていく。
 銀時はそれを疑いの目で見つめ、手をつけようとはしなかった。沖田は辛抱強く、銀時が食べるのを待った。空腹には勝てず、銀時も渋々口をつける。前回は見せつけるだけ見せつけて渡さなかったソーセージだが、今回はすんなりと食べさせてくれた。
 銀時は驚いて、沖田の顔を見上げた。首を傾げると、沖田が柔らかく笑う。その微笑みが綺麗で、思わず見惚れてしまった。
「美味かったかィ?」
「なぁ」
 ソーセージを食べ終え、意地汚くパックを舐めている銀時の頭を、沖田は優しく撫でた。短く鳴いて応えれば嬉しそうにまた撫でてきた。
 あの時とは違ってひどく優しい沖田に、銀時は混乱していた。頭でも打ったのではないかと、変なところを心配してしまう。
「可愛い猫だねィ。お前……じゃあアレなんで、名前つけやしょーか。そうだねィ、銀、とか」
 銀時が応える間もなく、沖田は上機嫌に銀時の喉を撫で出した。喉を撫でられると喉を鳴らしてしまうのは猫の性だ。文句を言う前にゴロゴロと喉を鳴らしてしまった。
「銀、か。お前があの人だったらよかったのに」
 きょとんと目を丸くする銀時を気にもせず、沖田は続ける。いつになく楽しそうだ。
「いや、あの人が猫だったら、俺が飼ってやるのに」
 そりゃ楽しそうだ、と沖田は言う。銀時を見下ろすその目は、明らかに本気だった。
 思わず「あの人」とやらに同情してしまう。もちろん、沖田の言う「あの人」が銀時だとは、当の本人は気づいていない。
 沖田は再度銀時を抱きあげ、胸に抱く。そしておもむろに、銀時に口付けた。
「っ!?」
 ぼふん、と盛大な音がした。
 何が起こったのかわからない。煙が視界いっぱいに広がって、何も見えない。煙を吸ってしまって咳き込んでいるうちに、だんだんと視界が晴れてきた。
 至近距離に、整った顔がある。
「……旦那?」
「え、沖田くん? って、え!?」
 声が出た。
 猫だったはずなのに、何故声が出るのかわけもわからず辺りを見回す。
 見える世界が違った。人間に戻っているようだ。手を持ち上げると、人間の手が開いたり閉じたりしているのが見える。
 戻った、と喜んでいると、銀時と同じく状況が飲みこめていない沖田の声が耳に届く。
「旦那、こりゃあどういうことですかィ? 俺ァさっきまで猫と戯れてたはずなんだがねィ」
 ギギギ、と不審な音を立てて銀時の首が回る。間近で、沖田が笑みを形作る。しかし、その瞳は笑っていなかった。冷や汗が背筋を伝い、悪寒が止まらなかった。
「えーっと、何かな。沖田くん」
「どういうことか、説明してくれますよねィ」
 声が氷点下まで下がっている。銀時は引きつった笑みを浮かべ、首を縦に振るしかなかった。
 これなら神楽に骨が潰れるほど抱きしめられた方がマシだったかもしれない。そう思ったが、あとの祭りでしかなかった。






+end+






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何を言いたいのかわからなくなりました。
猫編で、沖田くんが銀さんに冷たかったので(というか、ドS丸出しだったので)、いちゃつかせてみたいなぁと思ったらこんな結果に(ぇ
沖田くんはきっとこんなに猫といちゃつかないですよね(笑)






2010.05.03.