物理の講義中、沖田は教室の最後尾で講義を受けていた。手にはシャーペンを持っているがノートを取るつもりはないらしく、講義の内容が書かれるはずのルーズリーフには呪いの言葉が書き連ねられている。
 時折漏れる切ない吐息に、教室中の女子が胸を打たれる。しかし、当の本人は気にした様子もない。
 沖田が考えるのは、一目惚れした彼の人。ここ最近ずっと沖田の頭を占めている。
 一際強い光を放つ、美しい銀色。
 忘れられない、色。
 会いたいのに会えない。
 沖田はまたため息をついた。黄色い悲鳴が小さく、けれど確かに教室をざわめかせる。教師は不快そうに眉を顰めたが、何も言わずに授業を続けた。隣で授業を受けている土方も、彼と同じように眉を顰める。
「おい総悟。テメーいい加減にしろよ」
「何がですかィ?」
「何がってお前……もういい」
 きょとんと目を丸くする沖田には自覚がない。自分がどんな表情をしているのか。
 会いたいのに会えなくて、苦しくて、切なくて。恋をする胸の内が素直に表に出ている。沖田自身はいつも通り過ごしているつもりなので、その自覚がないのだ。
 しかも、いつもは適当に相手をする女子にも反応を示さないから、沖田が普段と違うということは周囲にバレバレなのだ。女子の好奇に満ちた視線は、アイドル的存在である沖田の相手が気になってしょうがないと訴えていた。
「じゃあ邪魔しねェでくだせェや」
 土方をねめつけると、沖田はまたルーズリーフに向き直る。が、やはり授業は耳に入らない。
 授業が終わり、土方に移動を促されるまで、ずっと彼のことを考えていたのだった。






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 三限目の授業が終わると、今日の授業は終了だ。
 大学生は自分で時間割を組むため、人によっては空き時間が多くなってしまう。沖田は理学部で、他の学部に比べると比較的忙しいのだが、今日は空き時間の多い日だった。それは腐れ縁の土方も同様で、沖田と土方はつるんで食堂にやってきていた。
「この時間でも結構多いな」
「やっぱり部室の方がよかったですかねィ」
 沖田と土方は剣道部に所属している。練習はしっかりするがわりと緩い部なので、部室には暇つぶしの道具がたくさんある。部室にいれば、暇を持て余すということはないのだ。
 だが、沖田たちが部室ではなく食堂に来たのには、別の理由があった。
「テメーが物理のノート写させてくれっつったんだろうが」
 先程の授業で沖田は全く授業を聞かず、ノートも取っていなかったため、土方のノートを写させてもらうことになったのだ。部室の机は物を書くには適していないため、食堂に来ることになった。
「へいへい。そりゃすいやせんねェ」
「反省の色が見えねぇんだよ」
 ゴツン、と頭を叩かれる。土方が呆れているのはわかっていたので、甘んじて叩かれておいた。
 人の多い食堂をすり抜けて、どうにか空いた席を確保する。食堂の一番奥の席だ。  沖田が土方からノートを借りて写し始めると、土方は飲み物を買いに席を立った。ついでにコーヒーを頼んで、またノートに向き直った。
 もともと物理は苦手な方ではなかったため、授業を聞いていなくてもノートを見ればだいたい理解できる。生真面目な土方らしくノートは綺麗に取られているため、サボりがちな沖田は非常に助かっていた。
 一応真面目にノートを写す沖田の耳に、聞きたかった声が届く。顔をあげると、会いたくてしょうがなかった銀色が目に入った。
 食堂の真ん中の方で、おそらく友人だと思われる二人と楽しそうに話している。髪の長い男だか女だかわからない奴と、沖田と同じ剣道部に所属する高杉だ。
 睨みつければ、高杉だけが気付き、にやりと口元を歪める。銀時の腰を抱き寄せ、耳元に唇を寄せた。
「……っ!」
 頭に血が上る。
 一週間以上、彼に会うことができなくて、思いは募るばかりで。想像の中でどれだけ彼に触れたことか知れない。毎日夢に見るほど、彼に会いたかった。
 それなのに、高杉はいとも簡単に銀色に触れた。沖田がずっと触れたかった銀色に。
 ガタンと音を立てて立ち上がる。楽しそうに笑って、その様子を見ていた高杉が銀時を促して食堂を出ていった。追いかけようとすると、後ろから土方に肩を叩かれた。
 飲み物を買って帰ってきたらしい。手には缶コーヒーが二つ握られている。
「何やってんだ」
「何って……」
 急いで銀時たちを探すが、食堂から出ていってしまったらしく、すでにどこにもいなかった。舌打ちをして、土方に向かってシャーペンを投げつけた。
「うおっ! 危ねっ!」
「今のはアンタが悪いんでさァ」
「なんだそりゃ」
 会えない怒りをぶつけるようにノートを写す。土方のノートがちょっと(かなり)ぐしゃぐしゃになってしまったが、そんなことは知ったことではない。土方が涙目になっているような気がしても、だ。
 今度こそ絶対に会いに行くのだと、そう心に決めながら。受け取ったコーヒーを飲みほした。






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大学生パロ沖銀です。
「思い立ったが吉日です」と「誰か嘘だと言って!」の間の話。
学部が違ってなかなか会えないのってたまらなくもどかしいですよね!
土方と高杉を友情出演させてみました。
一応裏設定があったりなかったりします(どっち






2010.04.16.