「ん?」
 久々の休日、散歩がてらにかぶき町をうろついていると、やけに嬉しそうな子供が目に入った。万事屋のところの子供だ。眼鏡をかけた地味そうな子供と馬鹿力を持つ凶悪な子供がパンパンに膨らんだ買い物袋を抱えている。
 常日頃金がないと嘆いている万事屋にしては珍しいことだ。
 そう思って見ていたのが悪かったのだろう。子供たちに気付かれ、一方に不機嫌をあらわに睨まれた。
「嫌な顔見たアル」
「ちょっと神楽ちゃん! すみません、土方さん」
「いや、いい」
 彼女が土方を嫌っているということは、土方自身わかっていたことだ。申し訳なさそうな少年に首を振って、煙草をくわえなおした。
 そんなことよりも、と土方はちょっとした疑問を口にする。
「すごい量だな。何かあるのか?」
 買い物袋の中はどうやら食料品のようで、彼らが食料品をこんなに買い込んでいるのは本当に珍しい。それに、万事屋の主がいないのも。
「ああ、パーティの準備ですよ」
「パーティ?」
「今日は銀ちゃんの誕生日ネ。みんなでお祝いするアル。お前なんかに構ってられないアルよ」
「神楽ちゃん!」
 少女は不遜に笑い、少年は彼女を宥めて。土方はその光景をぼんやりと見つめていた。
 思考がうまくまとまらなかった。
「土方さん?」
 少年に話しかけられ、我に返る。不機嫌な少女ですら、不思議そうに顔を覗き込んでいた。
 二人を見て土方は自分がかなりぼんやりしていたことに気付く。
「ああ、いや、何でもない。引き留めて悪かったな」
 短く言って彼らと別れ、心なしかふらつきながら歩く。心を落ち着けるため、深く煙草の煙を吸った。肺いっぱいに広がるニコチンに少し落ち着いた。
 誕生日。
 ふと、五か月前の自分の誕生日を思い出し眉間に皺が寄った。
 誕生日を祝ってもらったのだ。気が合いすぎて反発ばかりするあの男に。






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 誕生日だからと休みをもらったあの日、パーティの準備をするとかで屯所を追い出され、今日と同じようにかぶき町をうろついていた。
 ちょうどパチンコ店の前を通ったとき、目立つ銀髪と目があってしまった。昼間からパチンコをしていたらしく、手には大きな紙袋を抱えている。
「チッ!」
「あーあ。ヤな奴に会っちゃった」
 銀髪は嫌そうに目を眇めて深く息を吐く。そうしたいのはこっちだと煙草の煙を吐き出すと、さらにまた不機嫌になって。あからさまなその態度に腹が立った。
「で? 市民を守る幕府の飼い犬さんはぁ、こんなところで何してんの?」
 訂正。
 腹が立ったどころの話ではない。今にもブチ切れそうだ。
 反論しようと思ったが、まともに相手をするのも大人げないと思い直し怒鳴り声を噛み殺した。苦虫を数十匹噛み潰したような気分で口を開く。
「散歩だ。悪いか」
「別にぃ? 私服姿のあんたも珍しいと思ってな」
「なっ!」
 珍しいと言われるほど、彼に会った記憶はない。嫌っていた相手に覚えられていたことに驚いた。
「休みか?」
「……あ、ああ。誕生日だからって強制休暇だ」
「ふぅん……」
 景品がたくさん入った紙袋を抱え直し、銀髪は穏やかな表情で言葉を紡いだ。見たことのない表情に言葉が詰まる。詰まったことが気に入らなくて舌打ちした。
 自分が何を感じているのかよくわからなくなってきた。わけのわからない感情に苛立つ。
 土方を気にした様子もなく、銀髪はがさごそと紙袋を漁ったかと思うと中から景品を取り出した。投げつけられて咄嗟に受け止める。
「んだよっ! テメー、何投げつけてやがる!」
「やるよ。俺は吸わねーから」
 睨みつけた先の彼は見たこともないような柔らかな表情で。思わず目を見開いた。
 いや、違う。どこかで見たことがある。
 ああ、そうか。彼が子供たちとともにいるときに、見せた表情だ。
 慈しむような表情。それが、自分に向けられている。
「万事屋、お前……」
 ふわり、彼は目を細めて笑みを浮かべた。
「誕生日だから、な」
 握りしめたそれは、土方がよく吸う煙草だった。






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 思い返して優しい気分になった自分に大きく舌打ちした。
 擦れ違う人々が驚いたように土方を見る。周りの視線から逃れるように歩調を速めた。
 優しい表情。
 いつもの皮肉げに歪んだ表情とは違う。どこまでも慈愛に満ちて、どこか儚くて、家族のぬくもりをくれる、それ。
 あの日見たそれはいつまでも忘れることができなくて、ふとした瞬間に土方の心を軽くする。
 嫌いなはずなのに。あの表情を見たいと思っている自分もいて。
 矛盾にイライラとしたものを感じながら、口の中で小さくクソッと呟いた。
 短くなった煙草を携帯灰皿に入れ、新しい煙草をくわえる。ふと視線を落とすと、甘味屋が目に入った。
 ショーケースに飾られているのは、イチゴのたくさん乗ったホールケーキ。甘ったるくて吐きそうになりそうなケーキはアイツが好きそうだと思った。
「……」
 それを視界に収め、土方は立ち止まる。そして少しの逡巡の後、財布を取り出しながら中に入っていった。






+end+






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ぎ、銀さん誕生日?
まあ、祝う気はあります、土方くんが。
なんかふっと思い浮かんだのが、銀さんの誕生日を祝いたいのに素直に祝えない土方くんでした。
今年は土方くんが報われた、かな?(笑)
とにかく、銀さん誕生日おめでとう!
今年も愛してる!←


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※フリー期間は終了しました。






2009.10.09.