1ヶ月前、俺は事故に遭った。
 飲酒運転の信号無視。横断歩道を渡っていた俺は見事に巻き込まれた。幸い、片足骨折程度で済んだんだけど。3ヶ月は病院に閉じ込められることになった。
 松葉杖も許されなくて、病室に閉じ込められてはや1ヶ月。
 個室なもんだから話し相手もいないしテレビはつまんないし。俺ができることといえば窓際に置かれたベッドの上で外を見ることくらい。病室は二階だから病室の前を通る人もよく見えた。
 そこで俺は、恋をしてしまったんだ。
 夕暮れ時、何気なく見ていた窓の外に、彼はいた。急いでいたのか、早足で病院の前を通り過ぎていった。
 それが最初で、次の日もその次の日も、というか毎日見かけるようになった。なんで今まで見かけなかったんだろうと考えたけど、彼がそこを通る時間はまちまちだったし俺もずっと窓を見るようになったから、単に偶然見かけなかったんだろう。
 くるくる天パの俺とは違って髪はサラサラの茶髪で、顔は爽やかフェイスっての? とにかくかっこよくて。モテるんだろうな、とか思ってみたりもした。
 どんな性格なんだろう、どんな声で話すんだろう、学生なのかな、なんていろいろなことを考えるうちに、彼のことが好きになってしまった自分に気づいた。
 彼は男だし俺も男。別にソッチの気があるわけじゃないし、初恋はちゃんと女の子だった。なのに、どんどん好きになっていった。1日1回、病院の前を通るのを見るだけなのに、見れなかったら酷く落ち込んでる自分がいた。
 どうしようもなくなってた。
 会ってみたいって気持ちばっか育って。
 そればかりを楽しみにして、退院できる日を待っていた。






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 人生何が起こるかわからない。
 そんな言葉を実際に体験することになったのは、退院まであと1ヶ月という頃だった。
「……あの」
「おお! これドラクエじゃん。俺やりたかったんだよな」
「あのー……」
「近藤さん、24全シリーズ揃ってますぜ。こりゃ贅沢でさァ」
「あの、だから」
「チッ。ジャンプばっかじゃねーか。マガジンねぇのかよ」
「だからテメーら人の話を聞けェェェエエ!!」
 大声に、木に留まっていた小鳥が飛び立った。
 ある日突然俺の病室に集まり我が物顔で好き勝手やってくれたのは、俺が恋しちゃった茶髪くんとそのお友達だった。話を聞けば二階の窓から外を見る銀髪は大層目立ってたらしく。年も近そうだし遊びに行ってみるか、という話になったらしい。
 初対面の人間に対して何つー挨拶だと思ったが、なんかもうコイツらいつもこんな感じらしいから諦めることにした。
 茶髪くんが沖田総悟、黒髪くんが土方十四郎、焦げ茶のゴリラが近藤勲というのだそうだ。3人とも大学生でこの病院からそう遠くない銀魂大学に通ってるらしい。土方さんと沖田さんが大学二年生で、近藤さんがその1コ上。俺と3歳違う。
 言い忘れてたけど、俺は高校二年生だ。
「悪かったな、坂田。いきなり押しかけて」
「本当だよまったく……銀さん心臓止まるかと思った」
「この程度で止まるタマかよ。初対面で人にジャンプ投げつけてきたくせに」
「いやいやいや起きたら知らない人が3人もいたらさすがに驚くからね。そこまで図太くないからね、俺の神経」
「じゃ次は夜中に懐中電灯持ってお邪魔しまさァ」
「人が逃げらんねーのいいことにビビらそうとしてんじゃねー!!」
 ……コイツらと話すの疲れる。
 俺は思いっきりため息をついた。
 それから、週に何度か、3人は俺の病室に来るようになった。
 近藤さんも土方さんもいい人だった。俺が飲酒運転の事故に遭ったって言ったら近藤さんは本気で怒ってくれた。土方さんもなんだかんだで律儀だった。沖田さんも性格はアレだけど優しくて。
 やっぱりというか何というか、近藤さんとも土方さんとも普通に話せるのに沖田さんと話す時は緊張した。4人で話す時は平気なのに、2人だと何を話していいかわからなくなる。だけど、ますます好きになっていくから始末に負えない。
「あー、俺トイレ」
「俺も」
 俺が持て余していたパーティーゲームをやっていた近藤さんが立ち上がり病室を出て行く。沖田さんも近藤さんについていった。病室には動けない俺とジャンプを読んでいた土方さんが残った。
「オイ銀時」
「何……ですか?」
 ジャンプ読んでたんじゃないの、アンタ。
「お前、総悟のこと嫌いなのか」
「はあ!?」
 なんでそんなことになってんの。
「総悟が言ってたぞ。お前総悟と話す時だけぎこちなさが抜けねぇんだってな」
 あー……そういうこと。
 俺の好きな人と話すとドキドキしますっつー乙女心(こういうとキモいけど)は間違って解釈されちゃってんのか。いや、気付かれても困るけど。
「どうなんだよ」
「どうって……」
 いくら土方さんにだって、男が好きです、なんて言えるかよ。
「それとも逆か? 総悟が好きですってか?」
「……ッ!」
 顔に血が上った。ヤベェ……絶対今顔赤い。
 土方さんはジャンプをその辺に置くと、俺の真っ赤になった顔を覗き込んだ。
「図星かよ」
「う……」
 こんな顔見られたら今さら誤魔化しもできない。
「そーですよ! 沖田さんが好きだよ。悪いかよ!」
「逆ギレしてんじゃねぇよ」
 土方さんはどこか呆れたようなため息をついた。ぐしゃぐしゃと俺の頭をかき回してもといた椅子に座り直す。
「え……と、何も言わねーの?」
「言ってほしいのか?」
「いや、土方さんってそういうとこ固そうだから反対されんのかと思った」
 土方さん真面目の代名詞みたいな人だし。
「んなもん個人の勝手だろ。反対してほしいんならしてやるぞ」
「してほしくないけど……沖田さんに言うなよ」
「言うなよ?」
「言わないでください」
「ああ」
 頷いて、土方さんは笑った。土方さんはあまり笑う方じゃないから、土方さんの笑顔は貴重だ。笑うとかっこいいから、尚更。
「もっと笑えばいいのに」
「あ?」
「土方さんの笑った顔かっこいいぜ?」
「バカ言ってんじゃねぇ!!」
 怒鳴られた。でも、土方さんの耳が赤くなってたから多分照れてるだけだろう。そういうとこは可愛いかな。
 程なくして近藤さんと沖田さんが戻ってきて、また病室は大騒ぎになった。沖田さんをじっと見ていると、土方さんに小突かれた。






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 退院までずっと、沖田さんたちは見舞いに来てくれた。見舞いっつーより、ゲームやマンガ目当てって言った方がいいような気がするけど。
 だけどそれでも、俺にしてみりゃヒマも潰せるし沖田さんにも会えるしで全然苦にはならなかった。むしろお釣りがくるくらいだ。
 毎日のように沖田さんに会える。俺には、それで十分すぎるから。
「で、今日まで何も言えなかった、と」
 晴れて退院が決まったその前日。
 3人は当然のように病室にやってきて、退院祝いパーティを開いてくれた。いや、だから未成年の部屋に酒持ち込んでんじゃねーよ。それただの飲み会じゃねーか。
 そんな中で、ベッドに座った俺の隣に腰掛けて土方さんがぼそりと呟く。幸い酒の入った2人には聞こえなかったものの、俺は間髪入れずに枕を投げつけた。土方さんが持つビール缶のそばを掠めて、壁に激突する。
「うぉ! 危ね!」
「自業自得。つーか言うなっつっただろーが」
「総悟には言ってねぇ」
「そういう問題かよ! 俺の前でも言うな!!」
 女々しいと言われようと何だろうと、この気持ちを沖田さんに伝えるつもりはない。言って、この関係が壊れるのはイヤだから。
「どーせ会えなくなるんだけど」
「誰にですかィ?」
「うわっ」
「テメ、総悟!」
 土方さんの背中に乗っかるようにして、沖田さんが乱入する。思い切り背中をやられた土方さんが沖田さんを振り落とそうとしてるけど、存外に強いらしい沖田さんの力に四苦八苦している。
 俺はと言えば、体を強張らせて明後日の方向を見ていた。本人に伝える気はないとはいえ、本人の前でそんな話題はしたくない。だから、沖田さんと土方さんと、一人テレビに夢中になっている近藤さんを順に見やり、わざと話題を逸らした。
「アンタたちに会えなくなるってこと。毎日毎日うるさかったよな〜」
「そりゃ土方さんのせいでさァ。俺ァうるさくしてませんぜ」
「なんで俺のせいだよ! テメーがふざけてるからだろーが!」
「ほら土方さん、今も怒鳴ってますぜィ」
「テメーが怒鳴らせてんだよ!!」
「まあまあ、落ち着けトシ」
 沖田さんがおちょくって、土方さんが怒鳴って、近藤さんが宥めて。そんな、すっかりいつもになってしまったやりとり。それも今日で終わりだと思うと寂しい気がする。
 沖田さんと会えるのも、今日が。
 一瞬切ない表情を浮かべてしまったのがバレたんだろう。土方さんが深々とため息をついて近藤さんを連れ出した。酔い覚ましの飲み物を買いに行くと言っていたから、いちご牛乳を頼んでおいた。
 沖田さんはついて行かずに残って、病室には沈黙がおりる。2人っきりになったら緊張で何を話せばいいかわからない。
「あー……と」
「銀時ィ」
 沖田さんが土方さんがいなくなって空いたスペースに座る。つまり、隣に。思わずビールを取り落としそうになった。
 なんでそんな近いんだよ。
 俺の内心なんか知る由もない沖田さんはさらに距離を縮めてきて。今にも触れそうな位置に顔があってドキッとする。
「銀時は俺のこと嫌いなんですかィ?」
「はぁ!?」
 ちょっと待て。その質問前にも聞いたぞ。
 いつだったか、土方さんに訊かれた、それ。
「答えろよ」
 凄まれた。その辺は土方さんとは全然違う。至近距離で見つめられてうるさくなる鼓動を無視しながら呟く。
「……嫌いじゃないけど」
 渋々答える俺には、それだけ言うのが精一杯だ。
 沖田さんはどこか嬉しそうにしながら俺の持っていたビールを奪った。そして、一息で飲み干す。かなり酒くさい。
「じゃあ俺のこと好きだろィ?」
 じゃあって何、じゃあって!
 訊きたかったが、沖田さんの据わった目はそれを許さない。つーか目据わってる? 酔ってんの!?
「沖田さん、アンタ酔っ払ってんだろ!?」
「銀時ィ、先輩の質問には素直に答えるべきですぜィ」
 言いながら、沖田さんは俺をベッドに押し倒す。会話が噛み合ってないのに慌てていれば、本格的に組み敷かれる。
 落ち着いた頃には時すでに遅し。身動きひとつ取れなかった。
「ほらほら銀時、正直に答えなせェ」
「ちょ、沖田さん顔近っ! つーか酒くさいって!!」
 何故か迫ってくる沖田さんを避けようとするけど、僅かにすら動けない。それでも俺は何とかこの話題から逃げたくて仕方なかった。
 沖田さんにとっちゃじゃれあいの延長でも、俺にとってはそうじゃない。沖田さんのことが好きだから、言えなかった。
 苦しいだけなのはわかってるから。
 唇を噛み締めると、沖田さんがやや不機嫌そうに目を眇める。
「俺のこと嫌いじゃねェんだろィ?」
 そこは素直に頷く。
「嫌いじゃねェんなら好きだろィ。つーか好きになれ」
 命令!? と突っ込むヒマもなく、沖田さんの顔が近づいてきて。
 キス、される……!?
「…………」
 俺の上に覆い被さり、動かなくなる沖田さん。
 えーと、何コレ。どういう状況?
 疑問符を飛ばしていると、沖田さんから穏やかな寝息が聞こえてくる。
 もしかしなくても、寝てんのかよ! 俺のドキドキ返せ!! いや、それも乙女みたいでキモいけど。
 今までのこれが酒に酔った挙げ句のことだとわかると、一気に力が抜けた。真剣に考えた俺がバカらしくなる。
 冗談だったんだ、これは。そう自分に言い聞かせて、土方さんと近藤さんが帰ってくるまで沖田さんの布団になることに決めた。多分沖田さんとじゃれあうのもこれが最後なんだろうと思いながら。
 この時の俺は、沖田さんとの関係が続くとは思ってもいなかったから。






+end+






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アンケート2位、沖←銀パラレルです。
銀さんを年下にしてみたかったんです。
そしたらやっぱり難しかった(苦笑)
いつかリベンジします!
これもフリーですので、もらってってくださいませ☆
5000打ありがとうございましたvV






2009.4.1.エイプリルフールvV