俺の心はまだ、落ち着いてなんかいなくて。



「よォ、沖田くん」



 俺が不安定なのはあなたも知っているはずなのに。



「団子食いに行かねぇ?」



 もしかしたらあなたを斬ってしまうかもしれないのに。



「今日は俺が奢ってやるよ」



 いつものように、旦那は俺を誘う。






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 姉上が死んだ。


 片田舎に残してきた唯一の肉親。
 俺の大切な人。
 俺の世界。


 姉上が死んで、俺の世界は色を失った。
 何をする気にもならなくて、何を話す気にもならなくて、何を食べる気にもならなかった。


 死んでしまっても構わないとさえ、思った。



 断ることもできたはずなのに、俺は旦那についていった。
 旦那は何かを話していたけど、何も耳に入ってこなかった。
 団子屋について、俺と旦那は団子を食べた。
 ものを食べたのは久しぶりだった。



 どうしてこんなにも世界は変わらないんだろう。
 あの人はもういないのに。
 大切なモノはもうないというのに。



 一層気分が落ち込んだ。
 団子を食べる手を止めて、意識を腰に差した刀に向ける。



 今ならきっと、誰だって殺せる。
 目の前を通った天人も、走り抜けた子供も、絶対に勝てなかった土方さんも、あのチャイナも。
 旦那、だって――。



 旦那は団子を食べ終えたようだった。
 相変わらず隙だらけの姿。
 俺は一瞬で殺気をまとう。



 もう一人の俺が俺を止めている。
 刀を抜くなと。
 この人にだけは切っ先を向けてはいけない。
 そうしたらきっと、俺は戻れなくなる。



 殺気を隠そうともしない俺の頭に、大きな手が触れる。
 あたたかくて優しい手だ。


 顔をあげると、旦那がチャイナにするように俺の頭を撫でていた。
 俺を子供扱いする撫で方。
 ずっと前に撫でられたとき、旦那との差を感じるから嫌だと、俺は言った。
 旦那は面白そうに笑っていたけど。
 今は何故かそれが心地よくて。



 旦那はずるい。
 だって俺は思いだしたんだ。


 この世界はモノクロじゃない。
 姉上を置いてまで選んだ真選組も、こんな旦那とのひとときも、姉上と同じくらい大切で、愛おしくて、失いたくないものだって。


 旦那はずるい。
 本当にずるい。



 気がすんだのか、それとも俺の殺気が消えたことを見てとったのか、旦那は撫でるのをやめた。
 金を払って(本当に旦那の奢りだった)立ち上がる。



「だ、旦那!」



 慌てて着物の裾を掴む。
 振り向いた旦那の顔は変わらない笑顔。



「またな、総ちゃん」



 こんなときなのに、旦那は姉上と同じ呼び方で俺の名前を呼んだ。
 心の奥がぎゅっとなる。
 切なさを感じている間に、旦那は立ち去ってしまった。
 嬉しさと悔しさと悲しさがごちゃごちゃになって、ありがとうと何度も心の中で叫んだ。



 姉上が死んだ。


 唯一の肉親。
 俺の大切な人。
 俺の世界。


 俺は世界を失った。


 だけど世界はモノクロじゃない。
 光を浴びた世界は以前より鮮やかだ。



 俺のために残された団子を、俺は貪り食った。
 涙の味がしたような気がした。






+end+






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多分アニメでミツバ編があった頃に書いたもの。
沖田くんはこんなに弱くはないと思う。






20??.??.??