12月25日。世に言う、クリスマス。
 騒ぐだけ騒いで眠ってしまった子供たちに毛布をかけてやりながら、銀時は苦笑いを浮かべた。
 昨夜、神楽が突然クリスマスパーティをすると言い出した時には驚いた。買い出しに出て、どうにかクリスマスらしく飾り付けて、ケーキを作って。
 どれほど理不尽な思いがこみ上げても、神楽の笑顔を見るとすぐに吹き飛んでしまった。神楽がクリスマスという行事に触れたのは初めてのことだったらしい。
 そして、クリスマスを楽しんで、無謀にもサンタにプレゼントを願いながら眠ってしまった。ちなみに、神楽は酢コンブ一年分、新八は言わずもがな。
 子供たちが眠ると、万事屋は急に静かになる。パーティの余韻か、銀時には未だ睡魔は訪れない。自分専用の椅子に座り、銀時は嘆息した。
 一人になると思い浮かべてしまう人物がいる。自分とよく似た、対極にいる男。振り回されたくないのに、気がつけばいつもアイツに振り回されている。彼の前では憎まれ口しか叩けない。
 自分でも自分を制御できないこんな気持ちを持て余している。何にも執着せず、何にも囚われず生きてきたはずなのに。
 12月25日。世に言うクリスマス。
 聖なる夜だから、クリスマスだから。そういうわけではないが、会いたい、なんて。会えるわけもないのにそう思ってしまうのは、心の底から惚れてしまっているからなのだろう。






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 初めて会ったのは、池田屋の折。桂に巻き込まれた事件で、銀時と土方は出逢った。
 真選組の黒い服、それと同じ黒い髪。印象に残るのは瞳孔の開いた瞳。
 ほんの一瞬のケンカだった。危険な奴、程度にしか思わなかった。
 二度目に会ったのは近藤とのことがあった後。しつこく妙に言いよってきたのは近藤の方で、銀時は妙を守るために仕方なく決闘したのに、土方はそうは思わなかったらしい。卑怯な方法を使ったのは銀時なりの考えがあってのことだったのだが。
 土方は守りたいものがあると言った。それを守るためなら、邪魔なものは斬って捨てると。
 その言葉は、銀時の心をひどく揺さぶった。
 真っ直ぐな信念を持つ男は嫌いではなかった。つい口元に笑みが浮かんでしまうほど。
 それから何度か居酒屋で会うようになり、いろいろと話をした。会えば必ずというほどケンカをしたが、本当は嫌な奴ではないことを知っている。
 しかめっ面をしてばかりで短気、不器用。そのくせお人好しで面倒見がよくて、すごく優しい。
 銀時とはかけ離れているのに、酷似しているように思える不思議な男。
 この想いを自覚したのはいつのことだっただろう。
 気付いたら好きだった。気付いたが最後、ずぶずぶと溺れていって、抜けられなくなってしまった。
 会いたい。
 いつも思っている。
 いつだって土方は銀時の心の中にいて、銀時の心を揺さぶるのだ。土方のことを思うと胸が苦しくなる。
 叶わない恋だと知っているから。
 夢を見ていると知っているから。
 それでも、土方の些細な行動に気を取られてしまう。少しでも一緒にいたいと思ってしまう。
 誰にも言えない、銀時だけの秘密だった。






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 外に意識を向けると、雨が降っているのに気づいた。細く粒の細かい雨は、一見雪のようにも見える。
 街は今もキラキラと輝いているのだろう。きっと、こんな想いなど霞むほど眩しく、幸せを照らしているのだろう。そんな街にとって雪にも似たこの雨は幸せの延長でしかない。
 ふと、悔しい、なんて単語が浮かんで、銀時は自嘲気味に笑った。
 悔しいと思うなんてどうかしている。最初からわかっていたことだ。
 秘めた思い、叶わない願い。
 聖夜の奇跡も起こらない。
 銀時はもう一度窓を見やった。
 外は雨。流れていくだけの雨。
 この想いも雨に溶けて消えてしまえ。
 苦しいだけの想いはいらない。
 もしも奇跡が起こるなら、どうかこの想いを消してくれ。
「……?」
 玄関で音がする。こんな深夜に訪問者もないだろうから、泥棒だろうか。
 よくやるよ。この家に盗むもんなんてねぇっつーの。
 思い起こすと悲しいが、万事屋は極貧生活を送っている。銀時は木刀を片手に気配を殺して玄関に向かった。そして、ゆっくりと扉を開く。
 そこにいたのは、土方十四郎だった。
 驚きで声も出なかった。動くこともできず、土方を呆然と見つめる。
 雨の中傘もささずに来たのか、土方はびしょびしょに濡れていた。その黒い髪から水が滴り落ちる。
 水に濡れた姿もカッコいい。
 不覚にもそう思ってしまった。ただの現実逃避である。
 土方がここにいるはずがないのだから。
「――おい」
 ずっと黙っていた土方が口を開くが、銀時の耳には入っていない。即座に土方の怒りが沸点に達する。
「おいっつってんだろーが! 何か拭くモン持って来い!」
「は、はい!」
 土方の大声で銀時は我に返り、慌ててタオルを取りに走る。しかし、頭の中は混乱したままだった。
 何故土方がここにいるのだろう。どうしてこんな時間に。
 二つの疑問が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。
 タオルを手渡し、銀時はまた呆然と立ち尽くす。土方は身体を拭くのに必死で、答えてくれそうにない。
 銀時は混乱していて、体を拭き終えた土方が近づいてきたのにも気づかなかった。土方の手が腕に触れても。視界が変わるまで。
「え……」
 目の前にある男の顔と、唇に触れるものの感触。そのどちらも理解できず、銀時は硬直した。
 キスされている。
 そう理解したのは、ずいぶんとあとのことだった。その間に、土方の唇は何度も離れて何度も触れた。片方の手は銀時の腕を、もう片方は後頭部を捕らえ、逃げられないように押さえ込んでいる。
「……ちょっ……んッ」
 抗議しようと口を開くと、その隙間から舌が侵入してくる。熱を持ったそれは縦横無尽に動き回り、銀時の思考をかき乱す。触れるたびに体が震えて、力が入らなくなる。
 土方が唇を離すと、銀時は崩れ落ちた。土方が支えなければ座り込んでいただろう。
 銀時は必死に呼吸を繰り返しながら土方を睨みつける。
「……て、め……何、すんだよ、いきなりっ」
 その視線と言葉を受けて、土方は苦笑する。それが何やら余裕のように思えて気にくわない。さらに文句を言おうと息を吸ったところに、再度土方がキスをする。今度は貪るようなキスではなく、優しいキスだった。虚をつかれて文句が言えなくなる。
「なあ、銀時」
 土方の低い声が名前を呼ぶ。心は嬉しいほどに打ち震えて、しかしありえないと否定する。
「好きだ」
 銀時は驚愕に目を見開いた。聞こえてきた言葉が信じられず、声が出てこない。
「多串くん、酔ってる?」
「酔ってねぇっ! テメエ、人の真剣な告白を……」
「いや、だって……ねぇ?」
 今までありえないと思っていたのだから、信じられないのも無理はない。
「ねぇ? じゃねぇよ。好きだっつってんだろうが」
 土方の声が苛立ちを帯びる。
 普段と変わらない声音に銀時も平静を取り戻した。土方の言葉がすんなりと心に入ってくる。
 しかし、素直に好きだというのも悔しいので、キスをすることで応える。
 キスの最中に、携帯のバイブレーダが鳴った。土方の携帯だった。土方は舌打ちをしつつ携帯を開く。一緒になって銀時も覗き込む。
『早く帰って来いバカヤロー。死ね土方』
 沖田からのメールだった。土方の話によると土方は真選組のクリスマスパーティを抜け出してきたのだという。
「なんでそこまで……」
 銀時が尋ねると、土方は顔を真っ赤にしてそむけた。ぼそぼそと言い訳がましく呟く。
「クリスマスにこじつけねーとこんなこと言えねーだろ」
 こんな想いは消えてしまえ。
 銀時がそう願ったクリスマスの奇跡に、土方は恋の成就を願った。クリスマスの奇跡に賭けた。そして土方は賭けに勝ったのだ。
「仕方ねぇから帰る。だからってなかったことにするなよ」
 不意打ちのキスをして、土方は帰っていった。
 一人残された玄関で、銀時はうっすらと頬を染めた。未だ唇の感触が残っている。消えてほしいのに消えてくれない。けれど、心は何より満たされている。
 外はいつの間にか雪。想いは消えずに降り積もる。






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だいぶ昔に書いたのを発掘しました。
何この羞恥プレイ。






20??.??.??